はじめに
マンションの管理組合の役員として働くことを依頼された時、多くの人が「どれくらいの報酬が得られるのか?」「役員報酬は本当に必要なのか?」といった疑問を抱くことでしょう。
特に、役員として責任を持ちながらも、報酬の額がどの程度の価値を持つのかについては、住民の間で意見が分かれることが多いのです。
役員を引き受ける際、ある人は「自分の時間を割いてまでやる価値があるのだろうか?」と心配し、役員としての仕事が家族や仕事に与える影響について不安を感じます。
一方で、報酬が支払われるならば、少しでも家庭の足しになり、自分の努力が報われる感覚を持てると感じる人もいるでしょう。
しかし、「責任に見合うだけの報酬がないのでは?」という不満を抱くことも少なくありません。
この記事では、平成30年度の調査結果から見えてくるマンション役員報酬の現状や、その支払いの必要性、公平性に焦点を当てて解説します。
また、役員報酬を設定する際にはどのような基準が必要なのか、管理活動にどのように影響を与えるのかも具体的に見ていきます。
役員報酬の存在は、時には役員を務める人々の「報われたい」という感情を満たし、一方で「過剰な責任を負いたくない」という気持ちを誘発する要因にもなりえます。
この記事を通して、マンション管理の役員についてより深く理解し、自分たちのマンションにとって最適な方法を見つけていただければ幸いです。
役員報酬の支払い状況と管理組合の公平性
平成30年度調査が示す73.3%の支払い状況
平成30年度に実施された調査によると、日本全国のマンションの73.3%が役員報酬を支払っていないという実態が明らかになりました。
多くのマンションでは、管理組合の役員に対してボランティア的な側面を求めています。
つまり、役員の業務は基本的に「奉仕活動」として位置づけられているのです。
この結果を知った時、読者の中には「役員報酬が支払われていないのは不公平なのでは?」と感じる方もいるかもしれません。
役員を務めるには時間や労力が必要であり、特に理事長などの責任ある立場に就くと、その負担は決して軽くありません。
役員として働く人が公平に報われることは重要ですが、同時に報酬がないことで他の住民との公平性が保たれるという側面もあります。
公平性を求める区分所有者の意見とは
役員報酬の支払いに関しては、区分所有者の意見が大きく影響します。
報酬がないことで、役員に対して過度な期待を抱かないというメリットもあります。
「役員が無償で活動してくれている」という認識があることで、他の区分所有者も協力的になりやすい傾向があります。
「あの人たちが自分たちのために無償で頑張っているなら、私も少し協力しよう」といった心理が働くのです。
このような心理的効果によって、管理活動全体のバランスが保たれることもあるのです。
一方で、「役員に報酬を支払うことで、より責任感を持たせるべきだ」という意見もあります。
報酬があることで、役員の業務に対する責任が明確化され、管理活動の質の向上が期待できるという見方です。
報酬を支払うかどうかの決定は、こうした意見のバランスを取る必要があり、特にマンションの規模や状況に応じて慎重に検討することが求められるでしょう。
役員報酬の設定がもたらす管理活動への影響
役員報酬の設定が管理活動に与える影響も無視できません。
報酬があることで、役員になることに対する動機付けが強化され、役員の「なり手不足」の解消につながる可能性があります。
「多少なりとも報酬が出るなら、やってみようかな」と考える人が出てくることもあるでしょう。
特に責任の重い理事長などの役職では、報酬が一定の心理的な負担軽減に寄与することがあります。
ただし、報酬の存在が逆に「報酬に見合う活動をしなければならない」というプレッシャーとなり、役員になることを避ける人も出てくる可能性があります。
報酬があることで、「責任をきちんと果たさなければならない」というプレッシャーに押しつぶされそうに感じる人も少なくありません。
役員報酬を導入する場合、その金額が適切であるかどうか、また、住民の意見を反映しているかをしっかりと確認することが大切です。
また、報酬の導入により役員の質が向上するという期待もありますが、報酬が一定以上に高い場合は「報酬目当てで役員になろうとする人」が増えるリスクも考えられます。
管理組合の運営に関して、本当に住民全体の利益を考えているかどうかが重要なため、報酬が動機となり過ぎることによって本来の目的が歪んでしまう懸念もあります。
この点についても十分に考慮した上で、報酬額の設定や報酬の支払いをどうするかを決める必要があります。
役員報酬額の設定方法と収入・負担のバランス
理事長、理事、監事の一律支払いとその金額
役員報酬を設定する際に重要なのが、その金額がどれくらいの負担と見合うのかという点です。
平成30年度の調査によると、理事長の報酬額は平均して月額約9,500円、理事は約3,900円、監事は約3,200円というデータが示されています。
このような報酬額が「妥当」とされる理由は、役員の業務量や責任に見合った額を設定しようという考え方に基づいています。
しかし、多くのマンションでは「報酬が少なすぎる」という声や「報酬を支払う必要があるのか」という意見が存在します。
報酬の額が少ないことで、「こんな少ない金額で何を期待されているのだろう?」と感じてしまうこともあります。
役員報酬の設定は、そのマンションの管理体制や役員の負担に応じて調整することが求められます。
たとえば、大規模マンションであれば理事長の負担が増えるため、報酬額を上げることが考えられます。
また、報酬額が少なければ役員を引き受ける人がいない可能性がある一方で、過剰に高い報酬は住民の反感を買うリスクがあります。
「報酬が高すぎるために、役員に多くの業務を期待し過ぎてしまう」といった不満が生まれ、住民間の対立が生じることもあります。
こうした問題を防ぐためには、適切な報酬額を見つけることが重要です。
管理規約と運営細則での報酬額設定のポイント
役員報酬の金額を決定する際には、管理規約や運営細則に基づいて決定することが一般的です。
管理規約に直接記載すると、変更が難しくなるため、運営細則として設定するのが理想的です。
運営細則に記載することで、状況に応じて柔軟に報酬額を変更することが可能となり、年度ごとの役員の負担や管理活動の状況に合わせて見直すことができます。
例えば、ある年度に大規模修繕工事がある場合には、役員の負担が増えるため報酬額を一時的に引き上げることも考えられます。
修繕工事の打ち合わせや住民への説明会など、通常よりも多くの業務が発生することが予想されます。
このように、柔軟に対応できる仕組みを整えることで、役員のモチベーションを維持しつつ管理活動の質を高めることが可能です。
また、報酬額の見直しを簡単に行えるようにすることで、役員報酬が時代や管理状況に即した形で適正に設定されることが期待できます。
この柔軟性が、役員のなり手不足を防ぐための重要な要素となります。
役員辞退協力金での公平性確保の事例
役員の「なり手不足」が問題となる中で、役員辞退協力金という制度を導入するマンションもあります。
これは、役員の役割を引き受けることを辞退する場合に一定の協力金を支払うことで、公平性を確保しようという取り組みです。
この仕組みにより、役員になることを避ける住民にも負担を分担させることで、不公平感を減らすことができます。
例えば、役員報酬が設定されていない場合でも、役員辞退協力金を導入することで、「役員を引き受けることに対する責任」と「役員を辞退することによる負担」のバランスを取ることができます。
役員になることに不安を感じる住民も、「協力金であれば支払って公平に分担できるなら、それでも良い」と考える場合があります。
この制度は、役員を引き受けることが負担に感じられる一方で、その負担が他の住民にも公平に分配されるよう工夫されたものです。
しかし、役員辞退協力金の導入に際しても、注意が必要です。
協力金を支払うことで役員になることを避ける住民が増えすぎてしまった場合、結果として役員のなり手がますます不足する恐れがあります。
そのため、協力金の額や導入の条件については住民全体の合意を得ることが重要です。
また、協力金が公平に分配されているかどうか、定期的に見直しを行うことも求められます。
役員の選任と業務負担、報酬の必要性
負担と責任に見合う報酬設定の重要性
役員の選任に際しては、その負担と責任に見合った報酬設定が求められます。
役員の業務は多岐にわたり、特に理事長などの役職では管理活動全体の責任を負うことになります。
そのため、「報酬が支払われるべきだ」と考える住民も多く、報酬が負担の一部を軽減する手段として機能することが期待されます。
理事長としての業務では、大規模修繕工事の計画や住民との意見調整など、精神的・時間的な負担が大きくのしかかります。
そのため、「理事長の報酬がもう少し高ければ、やる気も出るのに」と感じる人もいるでしょう。
このように、役員の報酬が負担に見合うものであれば、その仕事に対するモチベーションを維持することが可能となります。
ただし、報酬が高いことで住民の期待が過度に膨らんでしまう可能性もあります。
「あの金額をもらっているのだから、もっとしっかりやってほしい」という声が上がると、役員はプレッシャーを感じ、結果として役員を引き受ける人が減ってしまうことも考えられます。
報酬設定は、住民の期待と役員の負担のバランスを考慮しながら行うことが重要です。
役員の業務内容と報酬額とのバランス
役員の業務内容は多岐にわたるため、その内容に応じた報酬額の設定が重要です。
管理組合の定例会議に出席することや、住民からの苦情対応、管理会社との連携など、日々の業務は非常に多岐にわたります。
「これだけの仕事をして、果たしてこの報酬で満足できるのだろうか?」と不満を感じる役員も少なくありません。
報酬額の設定が適切でない場合、役員のモチベーションが低下する恐れがあります。
過剰な業務負担に対して報酬が見合わないと感じた場合、役員のなり手がさらに減少し、マンションの管理体制に悪影響を及ぼすことも考えられます。
このため、役員の業務内容を把握し、適切な報酬額を設定することが大切です。
例えば、負担の重い業務を担う理事長にはより高い報酬を支払うなど、役員間での報酬バランスを取ることも重要です。
また、業務内容の可視化も報酬設定において重要なポイントです。
業務量が明確にされることで、役員の報酬額が適切かどうかの判断がしやすくなります。
役員の負担が住民にも理解されることで、報酬の正当性についての理解が深まり、住民間の対立も防ぎやすくなります。
なり手不足を防ぐための報酬支払うべきかの議論
多くのマンションでは、役員のなり手不足が深刻な問題となっています。
この問題を解決するために、役員報酬を支払うべきかどうかについての議論が行われています。
報酬が支払われることで、役員になることへのインセンティブが生まれ、なり手不足の解消に一定の効果が期待されます。
「報酬があるなら、少し頑張ってみようか」と感じる人が増えることは、管理組合にとって非常に有益です。
一方で、報酬を支払うことで「報酬に見合った活動を求められる」というプレッシャーを感じる住民もいます。
「少しでも報酬をもらうなら、住民からの要求も厳しくなるかもしれない」といった不安が生まれることも事実です。
また、報酬を得ることで住民からの批判や期待が増え、役員としての活動が逆にやりにくくなる場合もあります。
このため、役員報酬の導入については、住民全体の意見を集め、報酬の必要性をしっかりと議論することが重要です。
また、役員報酬の額だけでなく、役員の業務内容や負担についても明確にし、住民全体が納得できる形で役員報酬の設定を行うことが求められます。
まとめ
マンション管理組合の役員報酬に関する問題は、管理活動の公平性や住民間の意見のバランスを取るために非常に重要です。
平成30年度の調査によると、役員報酬を支払っていないマンションが73.3%を占める中で、報酬の設定が役員のモチベーションや管理活動にどのような影響を与えるかについて考えなければなりません。
役員報酬を支払うことには、役員のなり手不足を解消する効果が期待されますが、一方で報酬に対する責任感が増し、役員になることを避ける人も出てくる可能性があります。
「報酬をもらう以上、きちんとやらなければ」というプレッシャーが役員の選任を難しくすることも考えられます。
報酬額の設定にあたっては、理事長や理事、監事などの役職ごとの業務負担を考慮し、公平性を保つことが求められます。
また、報酬を運営細則に記載することで、柔軟な対応が可能となり、管理活動の状況に応じて報酬額を見直すことができます。
さらに、役員辞退協力金という制度を活用することで、役員になることを避ける住民にも一定の負担を分担させ、公平性を確保する取り組みも有効です。
「役員になるのが不安だが、辞退するなら負担を分担するべきだ」という考え方を浸透させることで、役員報酬に対する反発を和らげることができるでしょう。
役員報酬の導入に際しては、住民全体の意見を反映し、役員の業務内容や負担に見合った適切な報酬額を設定することが大切です。
マンションの管理体制を健全に維持するためには、住民間の協力と理解が不可欠です。
皆さんのマンションにとって最適な方法を、住民全体で一緒に見つけていきましょう。