
はじめに
鍵を閉めて出たはずのマンションが、静かに、しかし確実に周囲に悪影響を及ぼしていく――そんな現実をご存じでしょうか。
日本全国で深刻化する「マンションの空き家問題」。
とくに都市部や郊外を問わず、長期不在や相続による“埋もれた空室”の増加が加速しています。
全国の空き家率は過去最高水準に達しており、その中でも分譲マンションの空室は看過できない存在になりつつあります。
なぜ放置されたマンションは問題なのか。
管理費は誰が払うのか。
放置された排水口や換気扇、郵便物に潜むリスクとは何か。
そして、空き家状態に陥らないために今すぐやるべきこととは。
本記事では、「長期不在になる予定がある方」や「相続で管理を任された方」、「すでに放置してしまっている方」など、多くの読者の視点に立って問題を掘り下げていきます。
体験談と統計、実務的な対応策を織り交ぜ、誰にとっても身近な「放置されるマンション問題」のリアルに迫ります。
管理会社でも防げないマンション空き家問題の現実
放置された排水口から始まる建物の劣化
それは夏の終わり、実家のマンションに久しぶりに足を運んだ日のことでした。
玄関を開けた瞬間、もわっとした湿気とともに下水のような異臭が鼻をつきました。
「何これ……」と思わず口に出したほどの強烈な臭い。
原因は排水口の封水が蒸発し、臭気が室内に逆流していたことでした。
実はこの現象、長期不在のマンションでは珍しくありません。
特に気温の高い季節は封水の蒸発が進みやすく、2週間〜1ヶ月程度でも発生する可能性があると言われています。
一度発生した悪臭は壁紙や床材に染み付きやすく、簡単な換気や清掃では除去できない場合もあります。
その結果、売却や賃貸の際に資産価値が著しく下がる要因にもなりかねません。
「たかが臭い」と思いがちですが、その背後にあるのは排水管の乾燥、さらには錆や破損による漏水などの重大リスクです。
あなたの大切なマンション、排水口は生きていますか?
もし不安なら、次の帰省時には全ての蛇口を数十秒ずつ流してみてください。
案外、その一手間が何十万円分の修繕費を防ぐことに繋がるかもしれません。
埋もれた空室が引き起こす管理状態の悪化
マンションは「共有財産」です。
1戸が空き家になったからといって、それだけでトラブルが起きるわけではありません。
しかし、複数の空室が長期間放置されると話は変わってきます。
たとえば、共用部分の清掃状況。
ある管理組合では、3戸が半年以上空き家となったことで、階段や廊下のゴミの処理が滞る事態になりました。
原因は、空き家の住戸から郵便物が飛散したり、ドアポストが壊れたままになっていたこと。
結果的に、他の住民から「管理会社は何をしているんだ」と不満が噴出する事態に。
確かに管理会社は日常清掃や点検を担っていますが、個々の空き家の内部まで立ち入ることはできません。
つまり、空き家が増えるほど、管理の行き届かない「影のゾーン」が拡大するのです。
そうした影は、やがてマンション全体の「管理状態の悪化」として評価されるようになります。
不動産サイトでも“管理状態に不安あり”といったコメントがつくと、購入希望者が一気に減る傾向があります。
空室があること自体より、それが放置されている印象こそが最大の問題なのです。
放置は目に見えないスピードで広がる――そのことを忘れてはいけません。
長期不在による資産価値の低下と管理費増大
「戻るつもりはあるから、大丈夫」
そう考えている方ほど、空き家の怖さに気づきにくいかもしれません。
長期不在の間、マンションは止まることなく「老いて」いきます。
特に管理費と修繕積立金は、在宅か不在かに関係なく毎月発生します。
国土交通省の最新調査(令和5年度)によれば、平均的な分譲マンションの管理費は月額約1.6万円、修繕積立金は約1.2万円とされています。
これを合計すると月々約2.8万円となり、仮に3年間空き家状態が続けば、出費は合計で100万円を超える計算になります。
さらに、その間に修繕工事などがあれば、一時金として数十万円が追加で求められるケースもあります。
このような維持費は、不在であっても「所有している限り」課せられるもの。
「使ってないのに払わされるのは不合理だ」と感じるかもしれません。
ですが、それが区分所有法における“共有責任”という仕組みです。
放置されることで、管理費の滞納や積立不足が起きれば、それは他の住民にも波及していきます。
「誰が払うのか」という問いの答えは明確です。
「所有者であるあなたが払う」それが法律上の原則なのです。
だからこそ、空き家状態を回避する工夫が重要になります。
周辺環境への悪影響がマンション全体に波及
ベランダに枯れた植木鉢が残されたまま、夜でも灯りがつかない部屋。
そんな「気配のない住戸」が複数あると、どう見えるでしょうか。
まるで廃墟のような印象を与えてしまうかもしれません。
放置された空き家は、防犯面でもリスクを増大させます。
空き巣や不法侵入者にとって、長期間誰も出入りしない部屋は“格好のターゲット”。
とある自治体では、空き家を狙った連続盗難事件が報道された例もあります。
さらに、ポストに溜まった郵便物、汚れた網戸、開けっ放しの換気口などは、「管理されていない」ことを外部に示してしまいます。
その結果、周辺住民が不安を感じたり、資産価値の評価にマイナス影響を与えるケースも。
実際、不動産の購入希望者はマンションの「住人構成」や「清掃状況」など、外見から受ける印象を非常に重視します。
一つの空き家が、周囲の安心感を損なうことがあるのです。
あなたの“留守”が、誰かの“不安”につながっていないか。
その問いを胸に、まずは一度、現地を見に行くことから始めてみてはいかがでしょうか。
長期不在で増える維持費とやることの見極め
家を継ぐ前に知るべき管理費と維持費の全体像
静かな廊下に響く、郵便物が床に落ちる音。
実家のマンションに戻るたび、その積み重なった封筒を見ると胸がざわつきます。
「誰が払ってるんだろう……」
そう思ったのが、その人が“家を継ぐ”ことを意識し始めたきっかけでした。
分譲マンションの所有者になると、住んでいなくても毎月の管理費と修繕積立金が請求されます。
全国平均で月2万円以上が発生しているケースもあります。
住んでいなくても払うべきなのか。
法的には“所有している限り”支払い義務が続きます。
そしてその負担は、固定資産税や火災保険といった他の維持費と合算され、じわじわと家計を蝕んでいくのです。
目に見えない出費が、いつの間にか年間で数十万円に膨れ上がっていたということもあります。
実際、私の知人は相続後の4年間、ほとんど使っていない部屋のために合計100万円以上の支出を余儀なくされました。
管理会社からの催促の手紙、役所からの納税通知書、誰にも相談できないまま抱え込んでしまったそうです。
支払うたびに「これって本当に必要なのか?」という疑問が湧き、しかし誰にも答えを求められずに月日が流れていったそうです。
家を継ぐという行為には、感情だけでなく現実的な数字の把握が求められます。
実家の思い出、家族との時間、そして「守りたい」という気持ち。
それらを大切にするからこそ、冷静な判断が必要になります。
その重みを受け止めた上で、はじめて“引き継ぐ覚悟”が育つのではないでしょうか。
家を引き継ぐ前に、ぜひ一度「これから5年間でどれだけの費用がかかるのか」を試算してみてください。
その結果が、あなたにとって最良の決断を導く地図になるはずです。
海外赴任・田舎の実家など長期不在時の対応策
「3年間、海外に行くことになった」
ある日突然、そんな話が舞い込むこともあります。
それが夢のキャリアアップであっても、自宅マンションが“空き家”になることに変わりはありません。
田舎にある実家に高齢の親が一人暮らししていて、自分が都心にいる。
やがて親が施設に入った後、空き家になるのは時間の問題です。
実際、帰省のたびに郵便物があふれ、窓のサッシがカビていたという話も耳にします。
長期不在が確定したとき、まずすべきことは“不在期間の見積もり”と“所有継続の判断”です。
1年未満で戻る予定なら、水道・電気・ガスは止めず、通水や換気のタイミングを事前に決めておく必要があります。
さらに、近隣住民や管理人に一言伝えておくと、防犯上のトラブル回避にもつながります。
3年以上になるなら、第三者管理や一時賃貸、売却も視野に入れるべきかもしれません。
賃貸に出すことで、家賃収入によって維持費を補える場合もあります。
ただし、賃貸化には管理規約や近隣住民の同意など、クリアすべき条件も存在します。
大切なのは、「帰ってくるつもりだから」という感情論ではなく、生活と資産の両面からの冷静な判断です。
「誰かに貸すくらいなら空けておきたい」という気持ちも理解できます。
しかし、数年後に振り返ったとき、その判断が自分の生活にどんな影響を与えるかを想像してみてください。
それができた人ほど、後悔せずに未来の自分と向き合っているように感じます。
あなたなら、この選択どう向き合いますか?
管理会社に任せるべきことと任せられないこと
「全部、管理会社にお願いすれば安心」
そんな言葉を耳にすることがあります。
しかし実態は、そこまで万能ではありません。
管理会社が担当するのは共用部分の清掃や修繕、理事会運営の補助など。
専有部分、つまり自分の部屋の鍵の管理や換気、郵便物の整理などは原則としてオーナー自身の責任範囲に含まれます。
実際に、私の友人が3ヶ月の出張から帰宅したとき、ポストには未開封の請求書とチラシが山積み。
ドアの周囲にはクモの巣がはり、隣人から「ずっと留守なんですか?」と声をかけられたそうです。
管理会社は、住人一人ひとりの生活までは見守れません。
例えば、換気のための窓開け、エアコンの通電チェック、浴室の乾燥対応など、細かなケアは管理範囲外です。
つまり、“任せられる範囲”と“自分で責任を持つ範囲”を最初に線引きしておくことが重要なのです。
もしあなたが長期不在になる予定があるなら、一度管理会社との役割分担を再確認してみてください。
それを怠ると、「あれもこれもやってくれると思ってたのに」と落胆する未来が待っているかもしれません。
住まいは“任せる”だけでは維持できない。
そんな現実を、忘れないようにしたいものです。
留守宅管理サービスによる定期的な点検の重要性
「空き家になったら、泥棒に入られるのでは?」
誰もが一度は感じる不安です。
しかし、実際に問題になるのは防犯だけではありません。
雨漏り、カビの発生、換気不足による結露、害虫の繁殖……。
こうしたトラブルはすべて、「人の気配がない」ことが引き金になります。
さらに、火災報知器の電池切れ、ポストにたまったDM、浴室の排水口のにおいなど、日常的な異変も見逃せません。
留守宅管理サービスとは、長期不在の住戸を専門業者が定期的に巡回し、通水・換気・郵便確認・簡易清掃などを行うものです。
最近では月1回1万円前後から契約できるプランも増え、利用者も右肩上がりに増加しています。
遠方に住んでいる家族にとっても、こうしたサービスは非常に心強い存在です。
知人もこのサービスを利用しており、毎月写真付きで報告書が送られてくるそうです。
カビの有無、室温の変化、排水の状態まで記載されたレポートは、思った以上に詳細です。
不在時にも“見守られている”という安心感は、なにものにも代えがたいものがあります。
もちろん費用はかかりますが、それ以上に「放置のツケ」を防ぐ保険だと捉えるべきかもしれません。
帰ったらカビだらけの部屋だった、なんて状況にはなりたくないですよね。
あなたなら、1回の点検に価値を感じますか?
専門業者が解決する放置マンションの課題
放置されたマンションが抱える緊急時の対応問題
ある日、隣の部屋から異臭がするとの連絡が管理人に入りました。
すぐに駆けつけてみると、換気もされず数ヶ月放置された部屋のトイレから悪臭が漏れていたのです。
住人は長期出張中で連絡がつかず、スペアキーも管理会社が持っていませんでした。
結果的に消防が呼ばれ、玄関を破壊しての緊急対応となりました。
こうしたケースは稀ではなく、都市部のマンションでは年に数件発生しているといわれています。
特にトイレや浴室の排水口からの逆流臭は、気密性の高い現代の建物で深刻な被害をもたらします。
臭いだけでなく、床材の変色やカビ、隣室への浸水被害にも繋がるのです。
さらに、水が流れないことで排水管内部が乾燥し、詰まりやすくなったり異常音を発することもあるといいます。
専門業者による緊急時対応契約があれば、所有者に代わって早期の対処が可能になります。
このような契約は数千円〜数万円のコストで締結でき、実際の被害コストに比べるとごく僅かな出費で済みます。
夜間や休日など時間帯に関わらず対応してくれるプランもあり、不測の事態でも迅速な解決が可能です。
「もし何か起きたらどうする?」
そんな不安を事前に和らげる仕組みづくりが、これからは不可欠ではないでしょうか。
未来のトラブルを未然に防ぐためにも、万が一に備えた契約や備えを一度見直しておく価値は十分にあるはずです。
トイレや換気扇など設備劣化を防ぐ専門対応
数ヶ月使われていないトイレに入った瞬間、むわっと立ちこめるあの湿気と臭気。
思わず顔を背けた経験はありませんか?
水を流していない排水口やトイレは、封水が蒸発して悪臭の原因になります。
また、長期間使用していない換気扇やエアコンは、埃が溜まり、内部の湿気が抜けずカビの温床に。
空気の流れが止まると、室内の微細なホコリやハウスダストが滞留し、アレルギーを引き起こす可能性もあります。
専門業者が行う定期的な設備点検では、通水や換気のほか、機器の簡易稼働も含まれます。
たとえば、台所・洗面所・浴室・トイレの水を流す、換気扇を一定時間作動させるなど。
これだけの作業でも、室内環境の維持には効果絶大です。
電気系統や給排水設備の簡易チェックを加える業者もあり、不具合の予兆を早期に発見できることも。
実際に、空き家になっていた祖母の部屋を半年ぶりに訪れた際、排水口の臭いや湿気が皆無だったことに驚いたことがあります。
聞けば、地元の業者に月2回の巡回をお願いしていたとのこと。
専門的な目と手が入るだけで、こんなに違うのかと感じた瞬間でした。
手遅れになる前に、今のうちから予防線を張っておくことが賢明かもしれません。
放置は劣化を呼び、劣化は資産価値を奪っていく。
そうならないために、まずは“空気を動かす”ことから始めてみてはいかがでしょうか。
郵便物の管理や防犯対策までカバーする体制整備
ポストからあふれるチラシやダイレクトメール。
一目で「空き家」と分かってしまう外観は、防犯面での脆弱性をさらけ出しています。
郵便物の溢れは空き巣にとって格好の標的となり、地域全体の治安悪化を招く要因にもなります。
また、新聞がたまり続けると、管理組合から「放置されているのでは?」と懸念の声が上がることも。
こうした細部まで対応できるのが、専門業者の巡回サービスです。
ポストの確認と整理、不審物の除去、インターフォンや鍵の目視点検など、意外と盲点になりがちな部分をフォローしてくれます。
鍵穴に異物が詰められていないか、ドアの前に落ち葉やチラシが堆積していないかなどもチェック項目です。
ある管理会社では、留守宅管理サービスの中に「ポスト写真撮影」のオプションを導入し、所有者に状況をメールで報告しています。
これにより「本当に管理されているのか」という不安が払拭されると評判です。
他にも、照明の点灯チェックやタイマー式ライトの設置サポートなど、“生活の気配”を演出する工夫が施されるケースも。
“人の気配”を保つことは、空き家対策の第一歩です。
日々の小さなケアこそが、資産を守る盾になるのではないでしょうか。
所有者が物理的に動けないときほど、信頼できる外部の目と手が力を発揮します。
空き家の維持費を減らす専門業者の活用方法
「放置=お金がかからない」という誤解は根強く存在します。
実際には、空き家であっても管理費・修繕積立金・固定資産税などの費用は発生し続けます。
むしろ、人の出入りがないことでトラブルが起きやすく、修繕費用が高騰するリスクさえあります。
専門業者を活用することで、必要最低限の点検と予防策を講じ、無駄な支出を減らすことが可能になります。
たとえば、漏水を早期発見できれば、数十万円規模の修繕を未然に防げます。
また、空き家特例制度を活用して売却に踏み切る場合でも、適切に管理されていた物件のほうが売却価格が高くなる傾向にあります。
これは、宅建業者が査定時に「管理状況」を非常に重視するためです。
「使っていないけど、使える状態を保つ」
この視点が空き家活用の成否を分けます。
管理を怠った代償は、のちに資産価値の下落という形で跳ね返ってくることがあります。
さらに、売却前にクリーニングやリフォームが必要になる可能性も高くなり、想定外の出費に悩まされる例も少なくありません。
その前に、できることをできる人に頼む。
それが、長期的に見て最もコストパフォーマンスの高い選択かもしれません。
一見、費用に見えるものが、実は資産価値を守る“投資”になるとしたらどうでしょうか?
それを知っているか否かが、空き家との付き合い方を大きく変えるのです。
まとめ
静かに放置されたマンションが、実は多くの問題を孕んでいることに気づく人はそう多くありません。
誰もいない空間に蓄積する湿気と埃。
郵便物が溜まり、防犯性が低下する玄関周辺。
時間とともに進行する建物の劣化は、音もなく資産価値をむしばんでいきます。
そしてそれは、いざという時に誰が対応するのか、という現実的な問題にも直結します。
管理会社がすべてをカバーしてくれるわけではありません。
トイレの封水や換気扇の稼働、ポストのチェックなど、意外なほど「住人任せ」な部分は多いのです。
家を継ぐという選択。
長期不在になるという前提。
どちらの場合にも共通するのは、「放置してはいけない」という一点です。
ほんの数ヶ月の無関心が、後々大きな支出となって跳ね返ってくることもあります。
専門業者を活用するという選択肢は、贅沢ではなく予防策です。
必要なところに必要な手を入れる。
それは、あなたの資産を未来へ繋ぐための“意思表示”とも言えるのではないでしょうか。
日々の生活で精一杯な中、空き家のことまで気が回らない……。
そんな声も聞こえてきそうです。
だからこそ、できるだけ仕組みに任せてしまうのが現実的な対策なのかもしれません。
たった月1回の巡回、たった1通の報告メールが、不安を安心に変えてくれることもあるのです。
「何も起きていない今こそ、備えるとき」
その感覚を持てるかどうかが、分かれ道になるのではないでしょうか。