
「隣の住戸のことで困っています。管理組合から何とか言ってもらえませんか」
住民からそう相談されたとき、理事や理事長は簡単には答えを出せません。目の前で困っている人を放っておきたくない一方、事情を十分に確認しないまま相手へ注意すれば、今度は管理組合が一方の住民に肩入れしたと受け取られるおそれがあるからです。
相談する住民にも別の不安があります。騒音やゴミ、ペットなどの問題が続いているのに「住民同士の問題なので管理組合では対応できません」とだけ言われれば、勇気を出して相談したのに見放されたように感じるでしょう。
こうした行き違いが起きるのは、住民が求める「困りごとの解決」と、管理組合が担う「マンション管理」の範囲が必ずしも一致しないためです。
だからこそ、住民同士のトラブルでは、最初から「管理組合の問題」「個人間の問題」と二つに分けるのではなく、管理規約や使用細則、共用部分、共同生活の秩序との接点を確かめます。そのうえで、緊急性、確認できている事実、対象者が特定できているかを見ながら、状況に合った対応を選ぶことが重要です。
管理組合がすべての住民間トラブルを解決する必要はありません。しかし、何も確認しないまま「個人間の問題」と切り離すことも適切ではないでしょう。
この記事では、苦情を受けた理事や理事長が「これは管理組合で扱う問題なのか」「最初に何を確認すればよいのか」「どの段階から専門家へ相談するべきなのか」を判断できるように整理します。
マンションの住民同士のトラブルに管理組合はどこまで対応するのか
マンションでは、生活時間も家族構成も価値観も異なる人たちが同じ建物で暮らしています。
自分には何でもない足音が、下の住戸では夜ごと眠りを妨げる音になっているかもしれません。飼っている人にとって家族同然のペットも、別の住民にとっては鳴き声や臭いが大きな負担になる場合があります。
こうした違いがあるため、住民同士のトラブルでは「どちらがより困っているか」という感情だけを基準にすると、管理組合としての判断が難しくなります。
区分所有法では、区分所有者は建物の管理や使用に関して、区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならないという基本的な考え方が定められています。現行法は2026年4月1日に施行された改正後の内容です。
また、現行の令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)第67条では、法令、管理規約、使用細則などへの違反や、対象物件内の共同生活の秩序を乱す行為について、理事長が理事会の決議を経て必要な勧告、指示、警告を行える規定例が置かれています。ここでいう「区分所有者等」には、区分所有者だけでなく、その同居人や専有部分の貸与を受けた者なども含まれます。
ただし、マンション標準管理規約は、各マンションが管理規約を作成したり見直したりするときのひな型です。実際にどのような手続が必要なのかについては、自分のマンションの管理規約と使用細則を確認しなければなりません。
つまり、管理組合がどこまで対応できるかを考えるときは、「住民同士で揉めている」という表面だけを見るのではなく、その問題がマンション管理とどこで接しているのかを探します。
管理規約に違反しているのか、共用部分の管理に関係しているのか、共同生活の秩序や居住環境へ具体的な影響が生じているのかを確認します。
この考え方があると、理事長も「自分が二人の仲裁役になって、どちらが正しいか決めなければ」と抱え込みにくくなるでしょう。
相談を受けることと、住民間の争いをすべて解決することは同じではありません。管理組合として確認する範囲を見極めること自体が、最初の重要な対応になります。
管理組合が対応しやすい問題と対応しにくい問題の判定表
苦情を受けた直後は、相談者の声の強さや表情に気持ちを引っ張られやすくなります。
特につらそうな様子を目の前にすると、「ここまで困っているのだから、管理組合が何とかするべきではないか」と感じることもあるでしょう。
しかし、管理組合として関与するかを決める基準は、訴えの強さだけではありません。
問題とマンション管理との接点から整理します。
・規約/細則違反(ペット・無断改修)
・共用部分の不適切利用(私物放置・駐輪)
・秩序を乱す行為(ゴミ・継続的騒音)
・個人的な感情の対立・不仲・挨拶
・専有部分内で完結する私生活上の問題
・個人間の損害賠償・慰謝料請求
| 問題の種類 | 具体例 | 管理組合の関与 | 最初に確認すること |
|---|---|---|---|
| 管理規約や使用細則への違反 | ペット飼育ルール違反や無断工事など | 対応しやすい | 該当する規約や細則があるか |
| 共用部分の不適切な利用 | 廊下への私物放置や無断駐車など | 対応しやすい | 共用部分の管理や安全へ影響するか |
| 共同生活の秩序や居住環境に影響する行為 | 継続的な深夜騒音やゴミ問題など | 状況により対応しやすい | 頻度、継続性、影響の程度、規約との関係 |
| 専有部分内の私的な問題 | 他戸へ影響しない生活習慣など | 対応しにくい | 管理上の問題へ波及しているか |
| 人間関係や感情の対立 | 挨拶や不仲や過去の口論など | 原則として対応しにくい | 具体的な規約違反行為があるか |
| 住民個人の損害賠償 | 家財損害や慰謝料など | 原則として当事者間で検討 | 誰の権利についての請求なのか |
| 共用部分等の損害賠償 | 共用部分等に生じた損害 | 規約等により管理組合が関与する場合がある | 管理規約と請求権の内容 |
ここで注意したいのは、「マンション全体に影響しているか」を唯一の基準にしないことです。
特定の一戸から生じた行為によって、一戸だけが継続的に影響を受けているケースもあります。それでも、規約や使用細則への違反、共用部分の管理、共同生活の秩序との具体的な接点があれば、管理組合として検討すべき問題になる可能性があります。
反対に、多くの住民が不満を感じているからといって、それだけで管理組合が相手へ自由に制裁できるわけでもありません。
人数ではなく、何が起きていて、その行為が規約やマンション管理とどのように関係しているのかを見る必要があります。
また、「損害賠償」という言葉だけで管理組合の範囲外と判断することも避けます。
住民個人が自分の家財損害や慰料を相手へ請求する問題は、基本的に当事者間の権利義務に関する法的問題です。
一方、現行のマンション標準管理規約(単棟型)第24条の2では、保険金のほか、敷地や共用部分等について生じた損害賠償金などの請求と受領について、理事長が区分所有者および旧区分所有者を代理する規定例が置かれています。
「損害賠償かどうか」だけを見るのではなく、誰のどの権利についての請求なのかを確認することが大切です。
苦情を受けた管理組合が最初に判断する3つの分岐
苦情が届くと、「まず注意文を出したほうがよいのでは」と考えることがあります。
何か目に見える行動をしなければ、相談者から「管理組合は何もしてくれない」と思われそうで不安になるからです。
とはいえ、全体周知は数ある対応方法の一つであり、どの問題でも必ず最初に行う手続ではありません。
初動では、緊急性、事実の確認状況、対象者の特定状況によって対応を分けます。
緊急性がある場合は安全確保を優先する
暴力や脅迫、火災、重大な漏水など、人や建物へ差し迫った危険が生じている場合には、通常の理事会手続だけを待つことが適切ではない可能性があります。
このような場面で一般的な注意文を掲示しても、目の前の危険は解消しません。
状況に応じて警察や消防へ連絡し、管理会社などとも連携しながら安全確保を優先します。マンション標準管理規約(単棟型)にも、災害や事故などの緊急時に重大な影響のおそれがある場合の立入りや保存行為を想定した規定例があります。
理事長自身が危険な相手を説得しに行かなければならないわけではありません。
「管理組合なのだから、自分たちで収めなければ」と考えるほど、役員自身が危険な状況へ入り込んでしまうことがあります。安全に関係する問題では、通常の管理対応と緊急対応を分けて考えます。
対象者や事実が分からない場合は確認を優先する
「上の階から毎晩音がします」
相談者がそう訴えていると、すぐ上階の住民へ連絡したくなるかもしれません。
相談している本人は何日も音に悩まされているため、「上の部屋に決まっている」と確信していることもあるでしょう。
しかし、マンションでは音や振動が構造体を伝わり、聞こえてくる方向と実際の発生源が一致しないことがあります。
ゴミ集積所にルール違反と思われるゴミが置かれていても、誰が出したのか分からないケースもあります。
このように事実や対象者を十分に確認できていない段階では、日時や状況の記録、現地確認などを進めます。
必要であれば、住民全体への注意喚起も検討します。
全体周知が向いているのは、原因となる住戸が分からない場合や、多くの住民に改めて確認してほしい生活ルールがある場合です。
対象者と規約違反が明確なら個別対応も検討する
対象者が特定され、具体的な事実が確認され、管理規約や使用細則上の根拠も明確な場合には、必ず全体周知から始める必要はありません。
現行のマンション標準管理規約(単棟型)第67条では、一定の違反などについて、理事長が理事会の決議を経て必要な勧告、指示、警告を行える規定例が置かれています。
たとえば、使用細則で禁止されている共用廊下への物品放置について、対象住戸も状況も客観的に確認できているケースを考えてみましょう。
この状態でも一般的な掲示だけを何度も繰り返せば、ルールを守っている住民まで同じ注意を受け続けます。
相談した住民から見ても、「誰が置いているか分かっているのに、なぜ直接伝えないのだろう」と不満が強くなるかもしれません。
大切なのは、常に弱い対応から順番に行うことではありません。
事実、根拠、緊急性に応じて必要な対応を選ぶことです。
管理組合が対応しやすいトラブル
管理規約と使用細則への違反
管理組合が比較的判断しやすいのは、マンションで決められたルールと実際の行為との関係が明確な場合です。
たとえば、ペット飼育細則で共用部分ではペットを抱きかかえると定められているのに、繰り返し廊下を歩かせているケースがあります。
相談する住民は「あの飼い主はいつもルールを守らない」と腹を立てているかもしれません。
しかし、理事会で見るべきなのは飼い主の人柄ではありません。
「非常識な人なのか」という問題を、「飼育細則に定められた利用方法が守られているか」という管理上の問題へ置き換えます。
そうすると、理事会も個人への好き嫌いから離れ、全住民へ同じ規約をどのように適用するのかという視点で考えられるようになります。
この違いは小さく見えて、実務では重要です。
人格を問題にすると相手は自分自身を否定されたと感じやすくなります。一方、行為とルールを問題にすれば、何を改善してほしいのかを具体的に伝えやすくなるでしょう。
共用部分の使い方
共用廊下や階段、駐車場、駐輪場などは、多くの住民が利用する場所です。
一人の利用方法によって通行や安全、管理へ支障が出ている場合には、管理組合として対応する理由が生じやすくなります。
たとえば共用廊下に私物が置かれていると、周囲の住民は「なぜ自分たちはルールを守っているのに、あそこだけ許されるのだろう」と感じることがあります。
問題は、物が一つ置かれていることだけではありません。
対応に差があるように見えると、「管理組合は注意する相手を選んでいるのではないか」という不信につながることもあります。
それでも、私物を見つけた瞬間に違反と決めつけるのは早いでしょう。
その場所の位置付け、自分のマンションの規約や使用細則、実際に生じている支障を確認します。
対象者と違反内容が明確であれば、規約に定める手続を踏まえて個別の是正を求める方法があります。同じ状態が複数箇所に見られるなら、全体周知によってルール自体を再確認する方法も考えられます。
共同生活や管理に影響する迷惑行為
問題が特定の住民同士から始まっていても、規約や使用細則への違反、共用部分の管理、共同生活の秩序との具体的な接点があれば、管理組合として検討すべき問題になることがあります。
影響がマンション全体や複数住戸に及んでいることが、必ずしも管理組合が関与するための条件ではありません。
たとえば、特定の一戸から生じる深夜の騒音が一つの住戸へ継続的に影響している場合でも、程度や継続性、規約との関係などによって管理組合として確認すべき事項が生じる可能性があります。
指定日とは異なるゴミ出しが続き、臭いや害虫など共用部分の衛生管理へ影響しているケースも同様です。
また、共用部分での威圧的な言動によって管理員が通常の業務を続けられない状態になれば、単なる当事者間の感情問題として扱えないことがあります。
ここで見るべきなのは「何人が怒っているのか」だけではありません。
どのような行為が起き、その行為が規約や共同生活、マンション管理とどのようにつながっているのかを確認します。
管理組合が介入しにくいトラブル
個人的な感情の対立
「挨拶をしても無視されます」
「廊下ですれ違うたびに嫌な顔をされます」
こうした相談は、理事にとって扱いが難しいものです。
相談している本人にとっては深刻だからです。毎日暮らす場所で相手と顔を合わせることが苦痛になれば、自宅へ帰ることまで気が重くなることがあります。
だからといって、管理組合が「相手の態度が悪い」と認定して仲裁に入るとは限りません。
管理規約への違反や共同生活上の具体的な問題を伴わない人間関係について、管理組合がどちらの住民の言い分が正しいかを判断すると、管理組合自身が争いへ巻き込まれる可能性があります。
そこで、気持ちを否定するのではなく、管理上確認できる具体的な行為がないかを整理します。
「怖い人です」という相談だけでは判断しにくくても、「昨日午後8時頃に共用廊下で大声を出された」という出来事が分かれば、確認すべき内容が変わります。
心情を切り捨てるのではありません。
心情の背景に何が起きているのかを確かめ、管理組合が扱える問題へ整理できるかを見ることが大切です。
専有部分だけで完結する問題
専有部分で起きていることについて、管理組合が自由に調査や介入を行えるわけではありません。
室内の家具配置や掃除の頻度など、他住戸や共用部分へ具体的な影響が生じていない生活上の問題は、基本的に私生活の領域として考えます。
ただし、「専有部分で起きているから管理組合には関係ない」と場所だけで判断することも適切ではありません。
専有部分で発生した漏水が下階へ影響した場合や、室内工事が共用部分へ影響している場合など、管理上の問題との接点が生じることがあります。
見るべきなのは、出来事がどこで始まったかだけではありません。
その問題がどこへ影響しているのかです。
損害賠償や責任の確定
住民から「上階からの漏水で家具が使えなくなったので、相手に弁償させてください」と言われる場合があります。
被害を受けた側からすれば、原因と考えている相手に責任を取ってほしいと思うのは自然でしょう。
しかし、管理組合が規約上の問題を確認することと、住民個人の損害賠償責任や慰謝料、過失割合を判断することは別です。
個人固有の権利について法的責任を確定する必要がある場合には、基本的に当事者間で検討し、必要に応じて弁護士などへ相談します。
一方、敷地や共用部分等について生じた損害賠償については事情が異なる場合があります。
現行のマンション標準管理規約(単棟型)第24条の2では、一定の場合に理事長が区分所有者および旧区分所有者を代理して保険金や敷地・共用部分等について生じた損害賠償金などを請求し、受領する規定例が置かれています。
そのため、「損害賠償という言葉が出たから管理組合は関係ない」と一括して判断せず、誰のどの権利についての請求なのかを確認します。
苦情を受けた管理組合の初動手順
苦情を受けた理事長が恐れるのは、「何もしていない」と思われることかもしれません。
「今日中に注意してください」と求められれば、すぐ相手へ連絡しなければならないような気持ちになるでしょう。
しかし、初動で最も重要なのは、注意するまでの速さではありません。
後から「なぜこの対応を選んだのか」を説明できる状態を作ることです。
苦情を事実情報として記録する
相談者の話には、実際に起きた出来事と感情、本人なりの推測が混ざっています。
「上の住人が毎晩わざとドンドンしています」という言葉には、音を感じたという出来事のほか、「上の住人」「毎晩」「わざと」という評価や推測が含まれています。
そこで、相談者のつらさを否定せず、対応に使える情報へ整理します。
「いつ頃でしたか」「どのくらい続きましたか」「どのような音でしたか」と聞くと、相談者は「自分を疑っているのですか」と感じることがあるかもしれません。
そのため、「理事会で適切に検討するため、できるだけ正確な記録を残したいのです」と目的を伝えます。
聞き取りは相談者を問い詰めるためではありません。
困っているという訴えを、管理組合として判断できる情報へ変えるための作業です。
感情的な苦情を事実情報へ変える記録例
| 相談者の表現 | 管理組合で残す記録例 |
|---|---|
| 上の住民が嫌がらせで毎晩ドンドンしている | 申出者によると〇月〇日午後10時30分頃から約25分間、天井付近から断続的な衝撃音を感じたとのこと |
| 隣の犬が四六時中吠えていて耐えられない | 申出者によると平日午後1時から4時頃に犬の鳴き声が断続的に聞こえるとのこと |
| あの住民はゴミのルールをまったく守らない | 〇月〇日午後10時頃、指定収集日とは異なるゴミが集積所に置かれていたとの申出 |
| あの人は危険なので何とかしてほしい | 申出者によると〇月〇日午後7時頃、共用廊下で大声による発言を受けたとのこと |
「わざと」「いつも」「非常識」「危険」といった言葉を消してしまう必要はありません。
そこには、相談者がどれほど困っているかが表れています。
ただし、理事会が対応を判断するときには、本人の受け止めと確認可能な出来事を分けます。
感情を無視するための記録ではなく、感情だけで相手を違反者と決めないための記録です。
自マンションの規約と一次情報を確認する
事実を整理したら、自分のマンションの管理規約や使用細則を確認します。
ペット問題ならペット飼育細則、駐車場であれば駐車場使用細則など、個別のルールが定められていることがあります。
あわせて、管理会社へ何を委託しているのかを管理委託契約書で確かめます。
過去に似た問題が起きていれば、理事会や総会の議事録も参考になります。
以前は何も問題にしていなかった行為について、今回は説明もなく強い警告を行えば、「なぜ今回だけ違うのか」と疑問を持たれる可能性があります。
過去の対応へ必ず従う必要はありませんが、公平性を考える材料にはなるでしょう。
理事長一人で判断せず理事会で協議する
相談者から直接話を聞いた理事長は、その人の表情や声まで知っています。
「かなり困っている。早く何とかしてあげたい」と感じることもあるでしょう。
その気持ち自体を否定する必要はありません。
ただし、個人として感じたことと、管理組合として決定することは分けます。
現行のマンション標準管理規約(単棟型)第67条では、法令、管理規約、使用細則などへの違反や、対象物件内の共同生活の秩序を乱す行為について、理事長が理事会の決議を経て必要な勧告、指示、警告を行える規定例が置かれています。
実際の手続は、自分のマンションの管理規約を確認します。
一人で決めず理事会へ持ち込むと、自分では明確な規約違反だと思っていた問題について、別の役員から「本当にこの条文が当てはまるのでしょうか」という意見が出ることがあります。
意見が割れることは失敗ではありません。
複数の視点で確認することによって、後から住民へ理由を説明できる判断へ近づきます。
苦情を受けた日の時系列テンプレート
| 時期の目安 | 確認すること | 主な対応 |
|---|---|---|
| 苦情を受けた直後 | 緊急性 | 暴力や火災や重大な漏水などがあれば安全確保を優先 |
| 初動 | 事実関係 | 日時や場所や頻度などを記録 |
| 数日以内 | 管理上の根拠 | 規約や細則や管理委託契約書を確認 |
| 理事会対応 | 方法 | 全体周知か個別対応か専門家相談かを判断 |
| 対応後 | 効果 | 問題が改善したかを確認 |
| 継続時 | 次の段階 | 個別対応の見直しや専門家への相談を検討 |
この表は、すべてのトラブルを同じ日数で処理するためのものではありません。
大切なのは、掲示、個別警告、専門家相談を機械的な順番で並べないことです。
問題の状態に合わせて必要な手段を選び、対応したあとには変化を確かめます。
通常の管理対応で解決しない場合の法的措置
注意や警告をしても問題が終わらないことがあります。
同じ行為が続いていると、相談者からは「何度伝えても変わらないのに、まだ注意だけなのですか」と不満が出るかもしれません。
理事側も「この先どこまで強く対応してよいのだろう」と迷うでしょう。
ここで知っておきたいのは、通常の注意や警告とは別に、区分所有法上の法的措置が制度として存在することです。
共同の利益に反する行為については、区分所有法57条から60条に、行為の停止等、専有部分の使用禁止、区分所有権の競売、占有者への引渡し請求といった措置が定められています。現行のマンション標準管理規約(単棟型)第66条も、区分所有法57条から60条に基づく措置を想定しています。
ただし、これらは同じ条件で利用できる制度ではありません。
行為の停止等と、使用禁止や競売などのより強い措置では、必要となる要件や手続が異なります。
そのため、「何度も注意したのだから、次は競売を求められるだろう」と理事会だけで結論を出すべきではありません。
法的措置の存在を知っておくことは重要ですが、その発動要件まで役員だけで判断する必要はないのです。
通常の管理対応を超える可能性が出てきた段階で、これまでの経過記録や規約、理事会での対応内容を整理し、弁護士などの専門家へ相談して進めます。
騒音トラブルで管理組合が確認すること
騒音問題で特に注意したいのは、聞こえてくる方向と実際の発生源が一致するとは限らないことです。
夜中に何度も目を覚ましている相談者からすれば、「上の住戸から聞こえるのだから、原因は上の住民だ」と考えるのも無理はありません。
だからこそ、管理組合まで同じ前提で相手を違反者と決めつけず、発生日時、継続時間、音の特徴、頻度などを確認します。
発生源が不明な段階なら全体への生活音の注意喚起を検討でき、具体的な事実と対象が確認された段階では、自マンションの規約を踏まえて次の対応を考えます。
また、相談者が怒りのあまり壁や天井を叩き返したり、相手宅へ怒鳴り込んだりすれば、本来の騒音問題とは別の争いが始まる可能性があります。
「どうして自分だけ我慢しなければならないのか」と思うほど追い詰められることはあるでしょう。
それでも、報復するより具体的な記録を残し、第三者を通じて対応したほうが、本来解決したかった問題を見失いにくくなります。
ペットトラブルで管理組合が確認すること
ペット問題では、飼育そのものと飼育方法を分けることが重要です。
ペットの飼育が認められているマンションでも、頭数、共用部分での移動方法、鳴き声や臭いへの配慮などについて細則が定められている場合があります。
相談する住民は「毎日吠え声を聞かされるこちらの気持ちも考えてほしい」と感じているかもしれません。
一方、飼育する側は「家族同然のペットを否定された」と受け取り、強く反発することがあります。
この二つの感情を正面からぶつけても、理事会は判断できません。
そこで、「犬を飼っていることが良いか悪いか」ではなく、「現在の飼育方法が管理規約や使用細則に合っているか」という問題へ戻します。
規約違反が確認されれば、その根拠に沿って対応を検討できます。反対に、現在の規約や使用細則に沿った飼育について、単に動物が苦手という理由だけで特定の飼育者に個別の飼育禁止を求めることは難しいでしょう。
この整理をしておけば、現在の規約を適用する問題と、将来的にマンション全体として飼育ルールを見直す問題を混同せずに考えられます。
ゴミ出しトラブルで管理組合が確認すること
ゴミ問題では、共用部分の管理と証拠確認の方法を分けて考えることが大切です。
指定日ではないゴミが何度も残されると、住民や管理員は「またか」と疲れてきます。
最初はゴミ袋一つの問題だったのに、繰り返されるうちに「どうしてルールを守らない人が放置されているのか」という管理組合への不満へ変わることもあります。
まず排出ルールと現地の状態を確認し、必要な範囲で周知や個別対応を検討します。
防犯カメラなどを利用する場合には、個人情報やプライバシーへの配慮も必要です。映像から特定の個人を識別できる場合、その映像は個人情報に当たり得ます。自分のマンションの防犯カメラ運用細則や利用目的、閲覧や提供についてのルールを確認し、問題の確認に必要な範囲で取り扱います。
「誰が捨てたのか突き止めたい」という思いが強くなるほど、証拠を集めること自体が目的になりやすいものです。
本来の目的は違反者探しではありません。
ゴミ集積所を適切に利用できる状態へ戻し、住民が不公平感や衛生面の不安を抱えずに暮らせる環境を取り戻すことです。
駐車と駐輪トラブルで管理組合が確認すること
駐車や駐輪では、管理組合が、規約・契約上の根拠や緊急性を確認しないまま、独断で車両や自転車の移動・処分を進めないことが重要です。
自分の契約区画へ戻ったとき、知らない車が停まっていれば腹が立つでしょう。
「自分は料金を払っているのに、なぜ勝手に使われるのか」と感じれば、すぐに移動させてほしいと思うのも不自然ではありません。
管理組合としては、まず車両、日時、場所、契約状況などを確認します。
一度だけの誤駐車と、何度も繰り返されている無断駐車では、必要な対応も異なります。
対象者が分かり、利用ルールとの関係も明確であれば、自マンションの規約に沿って対応を検討します。
一方、車両や自転車の移動、処分など法的な問題が生じる行為については、怒っている住民から強く求められたとしても、その場で約束せず、規約や契約上の根拠、緊急性を整理したうえで、必要に応じて専門家へ確認するとよいでしょう。
管理会社は住民同士を仲裁してくれるのか
住民から相談を受けた理事が、「管理会社へ伝えれば何とかしてくれるだろう」と考えることがあります。
相談する住民も、管理会社へ電話すれば相手の部屋へ行って注意し、問題を最後まで解決してくれると思っているかもしれません。
しかし、管理会社がどこまで対応するかは、自分のマンションで締結している管理委託契約によって異なります。
国土交通省のマンション標準管理委託契約書は、管理組合と管理業者が管理委託契約を締結する際の指針として位置付けられており、現在の標準管理委託契約書も2025年12月12日に改正されています。この改正には、管理業者管理者方式への対応が含まれています。したがって、実際の対応範囲を判断するときは、自マンションの管理方式と管理委託契約書を確認することが前提です。
苦情の受付、理事会への報告、文書作成や掲示の補助などを管理会社が担う場合はありますが、住民同士のあらゆる争いを当然に仲裁するわけではありません。
だからといって、「管理会社には何もできない」と決めつける必要もないでしょう。
管理会社へ相談するときには、「相手へ注意してください」とだけ伝えるより、「今回の問題について、自分たちの管理方式と管理委託契約ではどこまで対応できますか」と確認したほうが、管理会社と管理組合それぞれの役割を整理しやすくなります。
管理組合で解決できない場合に案内できる相談先
管理組合として対応できない範囲が出てきたとき、「個人間の問題なので終わりです」とだけ伝えれば、相談した住民は途方に暮れてしまいます。
理事や理事長がすべてを解決できなくても、問題の性質に応じた相談先を示すことはできます。
管理組合の守備範囲を説明することと、相談者を突き放すことは同じではありません。
マンション管理センター
マンション管理センターでは、管理組合運営や管理規約、建物や設備の維持管理などについて、公平・中立な立場から相談対応を行っています。
一方、個別の住民間トラブルへ仲裁者として入ったり、個別事案の適法性や法的責任を判断したりする機関ではありません。
理事会として「規約をどう考えればよいのか」「管理組合としての整理方法が分からない」という段階では、考え方を確認する相談先の一つになります。
自治体の相談窓口
自治体によっては、法律相談やマンション管理相談、生活環境に関する相談窓口などを設けています。
利用できる制度や対象となる相談は地域によって異なるため、相談者の住所地にある窓口を確認して案内します。
「いきなり弁護士へ正式に依頼するのは不安です」と感じている住民にとって、問題を整理する最初の入口になることもあるでしょう。
マンション管理士
管理規約の運用や理事会の進め方について専門的な助言が必要な場合には、マンション管理士への相談が考えられます。
「今回の行為にどの規約を当てはめるのか」「理事会としてどのような手続を取るべきか」といったマンション管理実務上の疑問を整理するときに向いています。
一方、当事者の代理人として訴訟を行う役割とは異なります。
弁護士
損害賠償、差止め、区分所有法上の法的措置、訴訟などについて判断が必要になった場合には、弁護士への相談を検討します。
弁護士へ相談することは、直ちに裁判を起こすことを意味しません。
現在の状態でどのような選択肢があるのかを整理し、交渉を含めて次の対応を考えることもできます。
理事会だけで法的責任まで判断しようとするより、必要な地点で専門家へつなぐほうが、住民にとっても管理組合にとっても選択肢を残しやすいでしょう。
ADR
裁判以外にも、中立的な第三者を介して話し合いによる解決を目指すADRという方法があります。
裁判とは異なる形で柔軟な解決策を探せる可能性がありますが、具体的な手続や相手方の参加条件などは利用する機関によって異なります。
そのため、利用を検討するときは制度の内容を確認したうえで案内します。
管理会社とマンション管理士と弁護士の使い分け
| 相談先 | 向いている問題 | 主な役割 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 管理会社 | 日常管理や委託業務 | 苦情受付や報告や契約範囲内の実務 | 管理方式と管理委託契約によって対応範囲が異なる |
| マンション管理士 | 規約運用や理事会対応 | 管理組合運営への専門的助言 | 訴訟代理などとは役割が異なる |
| 弁護士 | 損害賠償や差止めなど | 法的判断や交渉や訴訟 | 費用や依頼範囲の確認が必要 |
| ADR機関 | 話し合いによる紛争解決 | 中立的な第三者による調整 | 相手方の参加など利用条件を確認する |
たとえば最初はマンション管理士へ規約運用を相談し、その後に法的措置が必要になった段階で弁護士へつなぐことも考えられます。
問題の段階に合わせて相談先を変えることが大切です。
対立を悪化させない伝え方と避けるべき行動
住民同士のトラブルでは、最初に起きた問題よりも、その後に交わした言葉によって関係が悪化することがあります。
「夜の音を少し静かにしてほしい」という問題だったはずなのに、玄関先で言い争ったことで「あの人だけは許せない」という争いへ変わることもあります。
管理組合が文章を出すときは、相手の人格ではなく、改善してほしい行為を伝えます。
「非常識な住民がいます」という表現ではなく、「夜間の生活音について相談が寄せられています」とします。
「ルールを守れない方へ」と責めるより、「使用細則に定める利用方法をご確認ください」と伝えたほうが、何を変えてほしいのかが明確です。
また、事実確認が不十分な状態で氏名や住戸番号を掲示したり、苦情を申し出た住民の名前を安易に相手へ伝えたりすることも避けたほうがよいでしょう。
録音や防犯カメラ映像についても、「証拠だから自由に公開してよい」とは限りません。
問題を止めたいという気持ちが強いほど、相手を特定したり周囲へ知らせたりすることが解決への近道に見える場合があります。
しかし、管理組合の目的は誰かを公然と非難することではなく、マンション内の問題となっている状態を改善することです。
住民全体への掲示文サンプル
全体周知は、発生源を十分に確認できていない場合や、住民全体へ共通する注意事項を伝えたい場合に検討しやすい方法です。
すでに対象者と違反内容が明確な場合には、このような掲示を必ず先に出さなければならないわけではありません。
苦情を申し出た住民への回答文サンプル
相談者は、何の説明もない状態が続くほど「放置されているのではないか」と不安になります。
すぐ最終的な結論を出せなくても、現在何を確認しているのかを伝えることで、不安を軽減できる場合があります。
専門家への相談文サンプル
専門家へ相談するときは、「相手がひどいので何とかしてください」という人物評価よりも、何が起きていて、どの規約を確認し、管理組合として何を行ったのかを整理して伝えるほうが論点を共有しやすくなります。
「深夜の騒音苦情で双方の主張が食い違っていましたが、感情的な言い分を排して『日時・時間帯・音の性質』を事実として記録。使用細則の条文に基づき理事会で協議したうえで対応を進めたところ、当事者同士の泥沼化を防ぎ、冷静な解決へ繋げることができました。」
マンション住民トラブルのよくある質問
Q1. 住民同士トラブルで管理組合が関与すべき境界線はどこですか?
Q2. 苦情を受けた理事長が独断で注意文を出してもよいですか?
Q3. 管理会社に頼めば相手への注意や仲裁をしてくれますか?
住民同士で直接話し合ったほうがよいですか
穏やかに話せる関係であれば、当事者間の会話で認識の違いが解消することもあります。ただし、すでに怒りが強くなっている場合や、威圧的な言動が見られる場合には、直接対面することで問題が悪化する可能性があります。「直接話すことが正しいか」ではなく、安全に問題を改善できる方法かどうかで考えるとよいでしょう。
匿名の苦情でも管理組合は対応できますか
共用廊下の私物やゴミ集積所の状態など、管理組合が現地で確認できる問題であれば、匿名の申出でも対応を検討できる場合があります。一方、騒音など継続的な聞き取りが必要な問題では、申出者へ追加確認できないことで事実関係を整理しにくくなる可能性があります。匿名か実名かだけではなく、管理組合が判断するために必要な具体的情報があるかを確認します。
苦情を出した住民の名前を相手に伝えてよいですか
相手から求められたという理由だけで、申出者の氏名や部屋番号を機械的に伝えるべきではありません。個人情報やプライバシーへの配慮が必要です。氏名を伝えなくても、問題となっている行為や改善してほしい内容を説明できる場合があります。開示の必要性について判断が難しければ、管理会社や専門家へ確認するとよいでしょう。
管理組合が対応できない場合はどこを案内すればよいですか
まず、管理組合で対応できない理由を整理します。規約運用や理事会の手続について判断できないのであればマンション管理士やマンション管理センター、住民個人の損害賠償や法的責任が中心なら弁護士などへの相談が考えられます。自治体の相談窓口やADRを利用できる場合もあるでしょう。管理組合で解決できないことは、「もう方法がありません」と相談者へ伝えることとは違います。管理組合の範囲外になった地点から、適切な相談先へつなぐことができます。
まとめ
マンションの住民同士のトラブルに管理組合がどこまで対応するかは、「住民同士の問題かどうか」という一言だけでは決まりません。
管理規約や使用細則への違反、共用部分との関係、共同生活の秩序や居住環境への影響を確認し、緊急性と事実確認の状況に応じて対応を選びます。
発生源や対象者が分からない場合には、記録や全体周知が有効なことがあります。対象者と違反内容が明確なら、自分のマンションの規約に定められた手続を踏まえて個別対応を検討できる場合もあるでしょう。
通常の注意や警告では解決できず、区分所有法上の法的措置を検討する段階では、それぞれの措置で必要となる要件や手続が異なります。理事会だけで結論を急がず、専門家へ相談して進めることが重要です。
苦情を受けた理事や理事長が、住民同士の問題をすべて背負う必要はありません。
相談者の気持ちを受け止めながら、人物ではなく行為を見て、感情だけではなく事実と規約を軸に考える。そのうえで管理組合としてできる範囲を見極め、必要な地点で適切な専門家へつなぐことが、住民を置き去りにせず、管理組合も無用な紛争へ巻き込まれないための現実的な対応です。
※本記事の法令・標準管理規約等に関する記述は2026年8月時点の情報を基にしています。個別のマンションでは、実際に有効な管理規約、使用細則、管理方式、管理委託契約書などを確認してください。
参考資料
建物の区分所有等に関する法律については、e-Gov法令検索の建物の区分所有等に関する法律を確認できます。
マンション標準管理規約の改定内容については、国土交通省のマンション標準管理規約を確認しています。
令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)の最新本文については、国土交通省の令和7年改正マンション標準管理規約 単棟型を参照しています。
マンション標準管理委託契約書の改正内容については、国土交通省のマンション標準管理委託契約書等の改正(2025年12月12日)を参考にしています。
防犯カメラ映像と個人情報に関する取り扱いについては、個人情報保護委員会の防犯カメラ映像と個人情報に関するQ&Aを参照しています。
管理組合運営や建物の維持管理に関する各種相談窓口については、公益財団法人マンション管理センターのマンション管理センターの相談窓口を確認できます。