
はじめに
「売れない」。
その言葉が心の奥底に沈殿し、毎朝の目覚めを重くする——そんな日々を送っている人も少なくありません。
マンションを売りに出して何ヶ月も動きがないと、「自分の選択が間違っていたのか」と自問し、モヤモヤが頭から離れないものです。
私も10年前、駅近で見晴らしの良いマンションを売却しようとした際、3ヶ月以上まったく問い合わせが入らず、焦燥感と孤独に包まれました。
「チャンスは確実に存在するのに、何かが届いていない」そんな感覚に苛まれたのを今も覚えています。
本記事では、マンションが売れない理由を深掘りし、今すぐできる改善策を、現場での知見を交えながら解説していきます。
実際の売主の心情や購入希望者の心理にも触れながら、戦略の立て直し方を具体的に示していきますので、悩みを抱えたままのあなたに届くはずです。
焦りの中でも冷静さを取り戻し、売却という目標へ近づくためのヒントを、ぜひ受け取ってください。
売れない原因を徹底分析して突破口を見つける
成約価格と売出価格のズレを解消する方法
「どうしてこの価格で売れないのか」。
頭の中で何度も反芻し、広告を見直し、担当者にも確認を取ったのに、返ってくるのは無音の数週間——こんな経験、ありませんか?
実はその原因、多くの場合は売出価格と成約価格の“見えないズレ”にあります。
レインズで公開されている過去の成約価格と自分の提示価格を比較して、3〜5%の乖離があると、問い合わせ数は目に見えて減ります。
とはいえ、すぐに値下げするのも不安です。
「もっと高く売れたかもしれないのに」と後悔する声も聞いたことがあります。
私が以前売却支援したある物件では、最初の提示価格から50万円だけ下げただけで、突然4件の内見予約が入り、1週間後には申込が入ったケースもありました。
つまり、“反応を見る”小さな価格調整が重要です。
いきなり100万円単位で動くより、10万〜20万円程度の調整で、市場の反応を感じ取ることが、精神的にも実務的にも効率的なのです。
「下げる勇気」を持つというより、「調整する視点」を持つこと。
市場に合わせて柔軟に動けることが、売却成功への最短ルートかもしれません。
競合物件との違いを見抜く分析術
「近所のマンションはすぐ売れたのに、なぜうちだけ?」
そんな疑問が湧いたら、競合分析のタイミングです。
競合物件というのは、ただ近くにある物件ではなく、「同じ条件の目で見られているライバル」のこと。
たとえば、同じ築年数、同じ広さ、同じ価格帯の物件があったとき、購入希望者はどこで判断を分けるでしょう?
答えは、写真の印象・部屋の明るさ・収納力・周辺の静けさなど、思いのほか「感覚的」な要素です。
私が担当した売主のひとりは、「眺望には自信があったのに、全然決まらない」と嘆いていました。
そこで他物件の情報を一覧化し、室内写真の撮影アングル、キャッチコピー、収納の見せ方を比較してみたんです。
すると、自信のあった眺望は他の物件でも似たような条件であり、むしろ“整理整頓された室内写真”の差が大きかった。
室内写真をプロのカメラマンに依頼し、家具を一部撤去してから再掲載したところ、アクセス数が2.5倍に跳ね上がり、2週間後には申込が入りました。
同じ条件でも「見せ方」で大きく差がつくのが、不動産の怖さであり面白さでもあります。
競合は敵ではありません。
自分の物件をより魅力的に見せるための“ヒントの宝庫”です。
築年数と周辺環境が与える印象とは
「築20年って古いと思われますか?」と、よく相談を受けます。
確かに、築浅の物件に比べると、印象でマイナスに捉えられがちですが、それだけでは決まりません。
実際、私がかつて売却を担当した築25年の物件は、駅から徒歩7分、小学校やスーパーが徒歩圏内に揃っており、“生活動線の整った街”に位置していました。
この物件は、家族連れをターゲットにした写真と広告に切り替えることで、シングル層ではなくファミリー層からの内見が一気に増えたんです。
築年数が古くても、「どんな生活がそこにあるか」を明確に伝えれば、魅力はグッと引き出せます。
たとえば、周囲に公園があるなら「週末の家族時間がもっと豊かになる空間」と訴求したり、コンビニや病院が近いなら「忙しい人にもやさしい環境」と説明できます。
数字よりも、その場所にどんな“暮らしの絵”が描けるか。
築年数だけを気にしてチャンスを逃すのはもったいないです。
立地と環境を再評価して、その物件の“生きる場所”を見つけてあげましょう。
少し視点を変えるだけで、売れなかった物件が輝き出すことがあります。
次章では、買い手の心を動かす内覧と空間演出の具体的な工夫に踏み込んでいきます。
内覧で「この家に住みたい」を引き出す技術
家具配置と清掃で空間価値を最大化
部屋に一歩入った瞬間、目に飛び込んできたのは散乱した雑誌と脱ぎ捨てられたスリッパ。
その瞬間、「ここには住めないな」と購入希望者がそっとドアを閉めた場面を、私は実際に目にしたことがあります。
それほどに、第一印象は命取りになりかねません。
家具の配置ひとつ、物の置き方ひとつで、空間の印象はガラリと変わるのです。
通路が狭く見えるような配置になっていないか。
明るさを遮る家具が窓際に置かれていないか。
よくある見落としが「住み慣れた空間ほど気づきにくい」という盲点です。
実際、私は自宅の売却準備中に「ここ、こんなに暗かったっけ?」と気づき、家具を一時的に倉庫に移しました。
照明を変え、カーテンを開け放っただけで、まるで展示場のような雰囲気に変わったんです。
また、掃除も「普段の清掃」では不十分です。
水回りの水垢、コンロの油汚れ、壁紙の薄いシミまで、購入希望者の視線は想像以上に細かいポイントに向けられています。
プロの清掃業者に頼むのも効果的ですが、自分でやるなら“指でなぞってみる”というのが良いテストになります。
もし指にホコリがつくようなら、もう一段階の磨きが必要です。
「この家、大切に使われてきたんだな」と思ってもらえるだけで、安心感は何倍にも膨らみます。
物件の価値は、図面や築年数だけでは測れません。
空間の清潔感と整然さが、その家の本当の価値を伝える手段になるのです。
香りと光で第一印象を劇的に変える方法
扉を開けた瞬間に漂う香りが、その場の空気を決めます。
もし、カビ臭やタバコ、ペットのにおいが残っていれば、どんなに内装が良くても心にブレーキがかかるものです。
私が以前にサポートした物件では、ペットを飼っていた家庭のため、徹底した換気と空気清浄機、さらにアロマディフューザーを使って「爽やかさ」を演出しました。
結果は、内見に来た家族の子どもが「ここ、いい匂い!」と笑顔を見せたことで、その場の空気が一気に柔らかくなりました。
香りは記憶に残る演出でもあります。
ラベンダーや柑橘系のアロマは万人受けしやすく、心理的にもリラックス効果があるとされているため、内見時におすすめです。
一方で、過剰な香りは逆効果。
「なにか隠してるのかも?」と勘ぐられる要因にもなるため、あくまで“自然さ”を大切にしてください。
そしてもうひとつの鍵が「光」です。
日中に内見を設定するのは基本ですが、それだけでは不十分。
窓を磨き、カーテンを開け、室内全体に柔らかい光が回るように照明も見直しましょう。
電球色と昼白色のバランスも、部屋の印象を大きく変えます。
特に北向きの部屋や1階の物件は、照明の工夫ひとつで“閉塞感”が和らぎます。
自然光が入る時間帯を意識しつつ、訪問者の目線を想像して「一番良く見える状態」に整えておくこと。
それが、見た目以上の価値を生む第一歩になるのです。
ルームツアー動画で興味を倍増させる
「この部屋、実際に歩いたらどんな感じだろう?」
そう思う購入希望者は少なくありません。
静止画の写真では伝わりにくい空間の“流れ”や“広がり”を伝えるために、今注目されているのがルームツアー動画です。
スマホ1台でも始められるこの手法、実は工夫次第で大きな反響につながる可能性があります。
以前、私が支援した物件では、営業担当が自らナレーション付きの動画を作成しました。
撮影時間はわずか15分、編集もスマホアプリで簡単に済ませ、YouTubeに限定公開して内見予約者に共有したんです。
すると、訪問前から「すでに家の雰囲気が分かっていた」と言われ、実際の内見では質問も減り、安心感が格段に高まっていたようでした。
重要なのは、「生活している様子」を想像させる構成です。
たとえば「玄関からリビングまでどれだけスムーズに動けるか」「洗濯動線はどうなっているか」など、暮らし目線でナビゲートしてあげると、共感が生まれやすくなります。
また、BGMやテロップを加えることで、見やすさや楽しさもアップします。
クオリティを求めすぎる必要はありません。
大切なのは「誠意」と「想像力」です。
物件の魅力を等身大で伝えることで、「会ってみたい」「実際に見てみたい」という気持ちを引き出せるのです。
時代は、ただ情報を出すだけでは動きません。
見せ方にひと工夫加えるだけで、未来の買い手との距離はぐっと縮まっていきます。
不動産会社とタッグを組んで売却成功へ導く
レインズとAI査定を最大限に活用する
「この価格で合ってるんでしょうか?」
そんな問いを私が投げかけられたのは、一度や二度ではありません。
売主の多くが抱える不安、それが「相場感がわからない」という壁です。
情報の非対称性が大きい不動産取引では、どうしても業者任せになりがちですが、信頼できる材料は存在します。
そのひとつがレインズ。
レインズとは不動産流通機構のシステムで、過去の成約事例が登録されています。
不動産会社に「レインズで似た物件の成約価格を見せてください」と伝えるだけで、明確な根拠を持った価格帯を把握することができます。
実際、私がかつて担当した売却案件でも、売主が「近所でこの価格だったなら、納得です」と自信を持てたことで、販売戦略にも前向きになりました。
もうひとつの武器がAI査定ツール。
最近では数社から無料で査定結果をもらえるサイトもあり、複数の角度から相場を“肌感”でつかむことができます。
ただし、ツールに頼り切るのではなく「一括査定で出た価格に、レインズで裏付けを取る」という流れが大切です。
相場を正しく掴むことは、売却戦略の土台を整える行為です。
相場を知らずに売り出すことは、地図なしで航海に出るようなもの。
不安や迷いがあるときこそ、情報を自分で集めて判断材料を増やしていきましょう。
SNSとポータルサイトで見込み客を獲得
時代は変わりました。
一昔前のように、不動産チラシや店頭だけでは情報は届きません。
今や購入希望者の多くがスマホで物件を探し、SNSで情報を収集しています。
私は以前、TwitterとInstagramでルームツアー動画を掲載し、問い合わせ件数が倍増した現場を見ました。
SNSの強みは、画像と動画で「暮らしの雰囲気」を直感的に伝えられる点です。
特に若年層や共働き世帯には、動画やストーリーズ形式の訴求がとても有効です。
たとえば「駅から徒歩5分の静かな環境」「日当たり抜群の南向きリビング」といった言葉に、実際の映像や家族の笑顔を重ねると、購買意欲はぐっと引き寄せられます。
とはいえ、SNSだけでは限界もあります。
不動産専門のポータルサイトへの登録は、今もなお王道です。
SUUMOやHOME'S、アットホームなど、物件ごとに強みがあるため、不動産会社にどのサイトが最も相性が良いかを確認しておきましょう。
掲載写真とキャッチコピーにも工夫が必要です。
「即入居可」「リフォーム済み」「小学校徒歩3分」など、暮らしの利便性を明示することが信頼感につながります。
視覚情報と生活価値、両方をバランスよく届けること。
それが、選ばれる物件への第一歩となります。
地域密着型仲介で安心とスピードを両立
「大手だから安心」そう思う方も多いですが、地域密着の仲介業者には、大手にはない強みがあります。
私が以前お世話になった地元の不動産会社は、徒歩5分圏内の物件に関しては、ほぼ全ての売買・賃貸情報を頭に入れているほどの情報量でした。
「この通りの南側は午後から日陰になるから、○○マンションの方が好まれますよ」など、住んでいる人にしかわからない実感が活きるのです。
こうした情報は、ネット上のデータには表れにくい“現場の体感値”。
特に、物件の売却スピードを重視するなら、こうした密な情報網がある業者と組むのが効果的です。
さらに、地域のネットワークを活かして、まだサイトに出ていない“探し中の顧客”を紹介してもらえることもあります。
もちろん、大手には広告力や全国ネットの強みがあります。
けれど「顔が見える距離で相談できる安心感」や「エリア限定の強さ」は、ローカル業者の武器です。
物件によって、向き・不向きがあります。
だからこそ、複数社に話を聞き、「売却戦略を一緒に考えてくれる存在か」を軸に判断していくのが賢明です。
相手を“業者”ではなく“パートナー”として見られるかどうか。
それが、売却成功の分かれ道になることもあるのです。
まとめ
マンションがなかなか売れない。
その事実は、心をざわつかせ、気づかぬうちに日常の選択肢を狭めていきます。
でも、原因を正しく見つめ直せば、道は必ず開けていきます。
価格が市場とズレていないか。
競合と比べて魅力を伝え切れているか。
内覧者が「ここに住んでみたい」と思える空気を作れているか。
そして、不動産会社ときちんと向き合えているか。
そのひとつひとつが噛み合えば、売却の流れは動き出します。
私は現場で何度も、「もうダメかも」という空気が一転する瞬間を見てきました。
実際、細かな工夫や再調整が功を奏し、数ヶ月売れなかった物件が、週末の内覧で決まることも珍しくありません。
焦りを感じたら、まずはひと呼吸。
ひとつずつ冷静に見直し、足元を整えていくことが大切です。
売却は単なる「取引」ではなく、あなたの過ごしてきた時間や想いを誰かに引き継ぐ作業でもあります。
だからこそ、丁寧に、そして前向きに向き合ってください。
「どうせ無理かも」ではなく、「次はきっと届くはず」——そんな希望を胸に動き出しましょう。
あなたのマンションが、次の誰かにとっての新しい物語の舞台になる日が、きっとやってきます。