
はじめに
「まさか、うちのマンションが…?」そんな心配を抱えている方は少なくありません。
実は、国土交通省の調査によれば、分譲マンション居住者のうち95.3%が、修繕積立金に対して不安を感じていると回答しています(出典:令和5年度マンション総合調査結果)。
建物は時間とともに確実に劣化します。
外壁のひび割れ、配管の腐食、エレベーターの異音──それらはいつか確実に訪れる「修繕のタイミング」を知らせる合図です。
とはいえ、必要なときにまとまった資金がなければ、大規模な修繕はおろか日常の維持管理すら滞るおそれがあります。
過去に、修繕積立金が足りず、住民から一時金を徴収せざるを得なかった経験があります。
その時の理事会はピリピリした空気に包まれ、住民同士の信頼関係にもひびが入りました。
そんな失敗を二度と繰り返さないためにも、会計の透明性と長期的な財務戦略が必要不可欠です。
この記事では、今のマンション管理に潜むリスクと、財務の「見える化」によって得られる安心を、経験談と最新データをもとに丁寧に紐解いていきます。
住民が納得し、安心して暮らせる環境とはどのようなものか、一緒に考えてみませんか?
修繕積立金の適正運用が生む資産価値の維持
築10年以上のマンションの29.2%で積立不足が発生
「えっ、うちのマンションももう築15年?」とカレンダーを見直す方もいるでしょう。
築10年を過ぎると、多くのマンションで外壁や設備の老朽化が顕在化し始めます。
そのタイミングで初めて、修繕積立金が足りないことに気づく──そんな事例を私は何度も見てきました。
実際、国土交通省の『令和5年度マンション総合調査』によれば、築10年以上のマンションの29.2%が修繕積立金不足という深刻な状態にあります(出典:令和5年度マンション総合調査結果)。
これが何を意味するかといえば、「いざというときに資金がなく、必要な修繕を先送りせざるを得ない」という現実です。
とある中規模マンションでは、外壁のタイルが剥がれ落ちる危険性があったにもかかわらず、修繕が2年後に持ち越されました。
理由は、積立金の残高が大規模修繕費の半額にすら満たなかったからです。
このようなケースは決して珍しくありません。
他方で、毎月の積立額が適正で、長期修繕計画に基づいて資金を積み立てているマンションは、資産価値の維持にも成功しています。
「何も起きていない今こそ、準備の始めどき」──それが現場に立って実感するメッセージです。
特にこれから物件を購入しようと考えている方は、積立金の水準と運用実態をチェックする目を養っておくと良いかもしれません。
長期修繕計画の策定率は86.5% 見直し実施率は59.6%
「計画は作って終わりではない」──これは私が何度も住民説明会で繰り返してきた言葉です。
国土交通省の統計によると、長期修繕計画を策定しているマンションは全国で86.5%に上ります。
一見すると高い数字ですが、計画を5年以内に見直している割合は59.6%にとどまります。
つまり、残りの約4割のマンションでは、策定した当初の計画を更新せずに運用している可能性があるのです(出典:令和5年度マンション総合調査結果)。
物価の上昇や人件費の高騰、資材不足など、時代の変化は計画に織り込まれていなければ意味がありません。
実際、私が関わったある物件では、2012年の時点で立てた修繕計画に基づいて2022年の大規模修繕を実施しようとしたところ、予算が1.4倍に膨らんでいました。
その結果、やむなく工事内容を一部削減し、予定していたエントランス改修は後回しに。
「せっかくの機会が無駄になった」という住民の声を、今でも忘れられません。
修繕計画の見直しは、住民の将来不安を和らげる「安心の地図」だと考えています。
見直すことで、「この先10年、何が起こっても備えがある」という感覚が生まれるのです。
その安心感は、居住者同士の信頼にもつながっていきます。
大規模修繕費は1戸あたり平均112万円の負担
マンションの規模や構造にもよりますが、一般的な大規模修繕の費用は決して小さくありません。
国土交通省によると、1戸あたりの修繕費は平均112万円程度となっています(出典:令和5年度マンション総合調査結果)。
この金額、急に一括で請求されたら……と考えると、ゾッとしませんか?
私は過去に、修繕費の積立が足りず、1戸あたり50万円の一時金徴収を実施した現場に立ち会いました。
「そんなの聞いてない」と怒る住民、「分割にしてほしい」と懇願する高齢者、理事長の肩は見るからに重そうでした。
だからこそ、日頃から地道に積み立てておくことがいかに大切か、痛感させられます。
さらに、業者選定や見積もりの取り方、住民合意のプロセス──それらを一つずつ丁寧に積み上げていく必要があります。
費用は高額ですが、それ以上に「納得して払える」状態をつくることが管理の本質です。
あなたの住んでいるマンション、次の大規模修繕はいつですか?
その時、112万円の価値をどう感じるでしょうか?
管理費と財務報告で高める運営の透明性と納得感
管理費の全国平均は月額1万2782円 内訳説明なしが36.7%
「毎月払っているけど、何に使われているの?」という声を何度聞いたかわかりません。
マンションの管理費は、清掃、電気、水道、設備点検などに使われています。
ただ、その内訳をしっかり説明していない管理組合は少なくありません。
実際、令和5年度のマンション総合調査では、36.7%の管理組合が内訳説明をしていないと回答しています(出典:令和5年度マンション総合調査結果)。
私自身、理事長をしていたとき「共用部の電気代が高すぎる」と住民に詰め寄られたことがありました。
それもそのはず、当時はLED化もされておらず、昼夜を問わず照明が点きっぱなし。
さらに、契約していた電力会社のプランも見直されておらず、コスト削減の余地があることすら知られていなかったのです。
数字が見えるだけで、住民の納得度は大きく変わります。
「管理費の1割でも無駄を減らせたら…」そんな意見も出ました。
まずは報告書のフォーマットを見直し、「何に、いくら、なぜ」が分かる資料をつくることが信頼への第一歩かもしれません。
それに加えて、半年に1回の説明会や配布資料に一言コメントを添えるだけでも、「あ、ちゃんと見てくれてる」と住民の安心感につながるようです。
実際、資料にQRコードをつけてオンラインで明細が見られるようにしたところ、問い合わせ件数が減ったという事例もありました。
財務報告を住民に説明している管理組合は52.1%
「報告書、配っておきましたから」で済ませている管理組合は意外と多いものです。
ところが、国交省の統計によると、財務状況を住民に説明していると答えた管理組合は、全体の52.1%にとどまります(出典:令和5年度マンション総合調査結果)。
つまり、ほぼ半数は説明会や会話の場を設けず、紙面配布だけで済ませていることになります。
私が以前サポートした管理組合でも、「説明を受けたことがない」と感じている住民が半数以上いました。
実はその会は、年1回きちんと総会も開いて報告もしていたのです。
でも、専門用語だらけで伝わらなかった。
「伝えた」と「伝わった」は全く別物です。
パワポのグラフを加えたり、数字を生活に置き換えたりするだけで、「なるほど」の声が増えていきました。
住民の一人が「これなら分かる!」と拍手してくれたことが忘れられません。
その一言で、他の理事も説明の重要性に気づき、翌年から定例の意見交換会が設けられるようになったのです。
大事なのは、形式ではなく共感だと感じました。
また、説明会を開けないときでも、掲示板やメール配信を通じて簡単な図解を共有するだけで、反応はまったく違います。
住民の目線で「どうすれば伝わるか」を考えることが、透明な管理運営への鍵になるのかもしれません。
定期監査を年1回以上実施する組合は全体の61.2%
監査と聞くと「お堅い」「面倒くさそう」と身構える方も多いかもしれません。
でも、これって実は、住民の信頼を左右する最後の砦なんです。
国交省の調査では、年1回以上の定期監査を実施している管理組合は全体の61.2%にとどまっています(出典:令和5年度マンション総合調査結果)。
つまり、4割近くはノーチェックのままということになります。
私が見たあるマンションでは、監査が形骸化し、5年分の帳簿にミスが見つかったことがありました。
それも、外部の監査士がようやく気づいたほどの細かい処理のミス。
住民説明の場でそれが発覚し、「今まで信じてたのに」と呆れ声が出た瞬間の重さは、今でも胸に残っています。
とはいえ、監査に費用がかかるのも事実。
だからこそ、自治会レベルでも構わないので、内部チェックを定期的に行う習慣をつけるだけでも全然違います。
その一歩が「透明なマンション管理」の始まりかもしれません。
最近では、外部監査を年に1回、内部監査を半年ごとに行うハイブリッド方式を導入している組合も増えてきました。
この方法ならコストも抑えつつ、二重のチェック体制が築けます。
また、監査報告に第三者のコメントを加えるだけで、「ちゃんと見られている」という印象が強くなり、不正の抑止力にもなるという声もあります。
信頼は、見える形にしてこそ育ちます。
「誰が見ても安心できる」そんな管理体制を、少しずつでも目指していきたいものです。
滞納対策と資金運用が支える財政の健全化
管理費や修繕積立金の滞納がある物件は25.1%
静かな朝、掲示板に貼られた「管理費の滞納にご注意ください」の紙を見て、なんとも言えない不安を覚えたことがあります。
滞納、それは一部の問題のようでいて、マンション全体に影を落とす存在です。
国土交通省の調査では、管理費や修繕積立金に滞納があるマンションは全体の25.1%にのぼっています(出典:令和5年度マンション総合調査結果)。
4件に1件という数字に、背筋がスッと冷たくなったのを今でも覚えています。
滞納が続くと、日々の清掃や点検業務に遅れが出るだけでなく、最終的には大規模修繕にも影響が出かねません。
以前、私が理事を務めていたマンションでは、滞納者への催告が遅れた結果、合計200万円近い未収金が発生しました。
督促も遅れに遅れ、理事会でも責任の所在をめぐって揉めに揉めました。
解決の糸口は、想像以上にシンプルでした。
まずは、滞納状況の「見える化」。
個人情報を伏せた上で、合計滞納額と対応方針を掲示板で共有するようにしたのです。
すると、住民から「何かできることはないか」と声が上がり、理事会と住民の距離がぐっと近づきました。
制度面でも、督促のフローを明文化し、分割払いの選択肢も設けることで柔軟な対応ができるようになりました。
ガチガチに厳しいだけではなく、共感と対話があることが、長期的な解決への第一歩なのかもしれません。
積立金の資産運用を実施している組合は4.7%にとどまる
「積立金が眠ったままになっているのはもったいない」そう感じる理事も少なくないはずです。
けれど、実際に資産運用をしている管理組合はわずか4.7%(出典:令和5年度マンション総合調査結果)。
理由は明確で、リスクへの不安と、知識不足による消極性です。
私も初めて理事になった年、銀行にただ預けている1,000万円超の修繕積立金を見て「何かできないのか」と思いました。
ただ、利率の良い商品はリスクもあり、住民の理解を得るのが難しい。
それでも、「せめて元本保証の商品で少しでも増やそう」と提案し、複数の金融機関を比較検討したことがあります。
結果、年0.2%の定期預金へ一部移行することができ、年間で数万円の利息が発生しました。
わずかかもしれませんが、理事会で報告したとき「ちゃんと考えてくれてるんだな」と言われたあの一言は、心に残っています。
今では多くの金融機関がマンション管理組合向けの資産運用商品を提供しています。
慎重さは必要ですが、調査を重ねた上での適切な選択は、住民全体の安心につながると思います。
不安なときこそ、「何もしないこと」のリスクにも目を向ける必要があるのかもしれません。
資産と負債を明確に管理している組合は27.8%
資産と負債──言葉にすると難しく聞こえるかもしれません。
でも、要は「どれだけ持っていて、何に使うかが分かる状態かどうか」です。
ところが、国土交通省の調査では、資産と負債を明確に区分して管理している組合は27.8%にすぎません(出典:令和5年度マンション総合調査結果)。
見えないお金は、不安の元になります。
以前ある管理組合で、駐車場使用料が長年「その他収入」に計上され続けていたことが発覚しました。
そのせいで修繕積立金に回されるはずだった金額が不足し、数十万円の差が生まれていたのです。
誰も悪意があったわけではなく、単に「分けていなかっただけ」。
ですが、会計処理を見直し、資産ごとに明細を分けたことで、財政の見通しが劇的に改善されました。
最終的には、定期的にバランスシートを掲示板で共有するようになり、住民の間でも「安心して任せられる」という空気が醸成されていきました。
すべての項目がきれいに整理されていなくても、まずは「分けて見る」意識が大切なのだと実感しています。
お金は無言ですが、その動きには必ず理由があります。
だからこそ、一つ一つの数字に目を配ることが、未来のトラブルを防ぐ小さな一歩になるのだと思います。
まとめ
マンションの財務運営は、日々の暮らしの安心と信頼に直結しています。
目に見えにくい部分だからこそ、不透明さが不安を生み出すのです。
修繕積立金の不足、管理費の内訳不明、監査の形骸化──それぞれが積もると、住民の疑念は大きくなります。
けれど、数字と仕組みを丁寧に「見える化」することで、住民の意識も徐々に変わっていくと私は感じています。
実際に、会計報告を図解に変えただけで出席率が2倍に増えた総会もありました。
誰だって、自分のお金がどう使われているのか知りたい。
その当たり前の気持ちに応える姿勢こそが、健全な管理組合の基盤なのだと思います。
滞納対策も運用改善も、住民との対話なしには進みません。
「難しいから」「面倒だから」と敬遠せず、少しでも知ろうとする姿勢が信頼の橋を架けていくのではないでしょうか。
大切なのは、完璧を目指すことではなく、改善の一歩を踏み出すこと。
情報共有、定期的な見直し、小さな合意形成──それらの積み重ねが、安心できる住まいを育てていきます。
将来の大規模修繕や突発的な支出も、「備えがある」ことで不安は和らぎます。
そして何より、「ここに住んでよかった」と思える住環境は、住民一人ひとりの参加と理解から生まれるのです。
今日できる小さな取り組みが、10年後の安心をつくります。
次の理事会、次の総会で、一つだけでも「見直してみよう」と思えるきっかけになれたなら幸いです。