はじめに
「本当にうちは大丈夫なのか」そんな不安が頭をよぎることはないでしょうか。
特にマンションに住む人々にとって、地震という脅威は、想像以上に現実的なリスクです。
2023年の内閣府の調査によると、家庭で防災対策を行っている人は全体の85.7％にのぼります（出典：内閣府防災情報のページ)。
しかし、その内容にはばらつきがあり、単に懐中電灯を買っただけというケースも少なくありません。
備蓄が不十分だったり、避難経路が把握できていなかったりと、「対策をしているつもり」になっている家庭も多いのが現状です。
私自身、過去に台風直撃を受けた際、懐中電灯の電池切れで暗闇をさまよい、子どもの不安な顔を見て心底悔やんだことがあります。
備えがあるかないか、それが生死を分ける可能性があると痛感しました。
この記事では、実際のデータに基づきながら、家庭でできる地震対策や防災グッズの整備方法を具体的に紹介していきます。
「何をどこまで備えるべきか」悩んでいる方にとって、実践的かつ心構えの参考になることを目指します。
防災は、ただの準備ではありません。
それは家族の未来を守るという、かけがえのない意志の現れです。
備蓄と防災グッズで変わる被災初動の質
食料備蓄率42.5％と水備蓄率35.5％の実態
東京都が2022年に行った「都民の防災意識に関する調査」によると、食料を3日分以上備蓄している世帯は42.5％、水に至っては35.5％と、半数以上が最低限の備えに届いていません（出典：東京都防災ホームページ)。
災害時にライフラインが停止する可能性は高く、備蓄が生命線になることは言うまでもありません。
実際、東日本大震災後には「スーパーの棚が空っぽ」「給水車に長蛇の列」といった光景があちこちで見られました。
とはいえ、備蓄と聞くと「大量に買い込まなければ」と身構えてしまう方も多いかもしれません。
私も以前は、ローリングストックという方法を知らずに期限切れの缶詰を大量廃棄する羽目になったことがあります。
ローリングストックとは、普段使いする食品を少し多めに買っておき、古いものから消費しながら補充していく仕組みのことです。
これなら無理なく、かつ無駄なく備蓄ができます。
大切なのは「非常用」と「日常用」の境界をなくすこと。
たとえば、レトルトカレーやパスタソース、フリーズドライ味噌汁などは、常備食にも災害食にもなります。
冷静に考えてみてください。
いざというときに食べ慣れた味があるというのは、精神的な支えにもなるはずです。
備蓄は量よりも、続けやすさ。
そして「家族の人数×3日分」だけでなく、「一人ひとりの嗜好」にも配慮すると、より実効性のある備えとなるでしょう。
「食べられる」ではなく「食べたい」と思える食材が、災害時には救いになります。
それが私の実感です。
簡易トイレ保有率26.6％と懐中電灯92.5％の格差
2023年の内閣府調査によると、懐中電灯を備えている家庭は92.5％と高い一方で、簡易トイレの保有率はわずか26.6％にとどまっています（出典：内閣府防災に関する世論調査）。
この差は何を意味するのでしょうか。
多くの人は「暗さ」には敏感ですが、「排泄」には後回しになりがちです。
しかし、実際の被災経験者が最も困ったと語るのが、トイレの問題。
断水時、トイレの使用は困難になります。
水を流せない便器に悪臭がこもり、家庭内の衛生環境が一気に悪化する可能性があります。
私は以前、防災イベントで段ボールトイレに座ってみたとき、その安定感のなさに驚きました。
「これを本当に使うのか…？」という違和感が先に立ちましたが、逆に言えば使い慣れておくことの重要性も実感できました。
簡易トイレは、「あれば安心」ではなく「なければ困る」類のアイテムです。
収納スペースを取らず、軽量で、長期保存が可能。
防臭機能や凝固剤付きの製品も多く、市販で手に入りやすいのも利点です。
たとえば、家族全員が1日5回トイレを使うとすると、3日分で15回×人数分。
この数字を見て「そんなに必要なのか」と思った方、それが現実です。
備えがないと、避難所でもプライバシーや衛生の問題が深刻化します。
特に女性や高齢者にとっては、心身のストレス要因になりかねません。
「懐中電灯はあって当然、でも簡易トイレは？」
この問いが、防災意識の成熟度を図るバロメーターになるかもしれません。
防災バッグ常備率33.2％に見る課題と改善策
内閣府の2023年調査では、防災バッグ（非常用持ち出し袋）を準備している家庭は33.2％と、3世帯に1つ程度にとどまっています（出典：内閣府防災情報）。
多くの人は「いざとなったら何とかなる」と思いがちですが、災害は待ってくれません。
私も阪神淡路大震災を経験した知人から、夜中の暗闇の中、割れたガラスを裸足で避けて歩いたという話を聞いて、すぐに防災バッグを見直しました。
そこに入れるべきものは、必ずしも「モノ」だけではありません。
たとえば、家族の連絡先リスト、コピーした保険証や診察券、アレルギー情報など。
災害時にはスマートフォンが使えなくなることもあるため、紙の情報が命綱になる可能性があります。
また、災害時に精神的な支えになるのが「日常の延長感」。
お気に入りの飴や子どものぬいぐるみが入っているだけで、安心感がぐっと変わるという話もあります。
一度、家族全員で「何を入れておきたいか」を話し合ってみると、思わぬ発見があります。
たとえば、小さな靴下1足が避難所で冷えから守ってくれるかもしれません。
防災バッグとは、「命を運ぶパッケージ」であると同時に、「日常を持ち出す道具」でもあるのです。
それは単なる袋ではなく、あなたの人生の記憶や安心を詰め込む容器なのかもしれません。
家具固定と初期消火で命を守る安全設計
家具固定未実施世帯57.8％が示す高リスク
東京都の「令和4年度防災に関する世論調査」によれば、家具の固定を行っていない家庭は57.8％にものぼります（出典：東京都防災ホームページ）。
これだけ多くの家庭が対策を怠っているという事実には、正直なところ驚かされました。
私自身もかつて本棚が倒れてきて、寝ていた子どもを間一髪で守ったことがあります。
あの瞬間の冷や汗は、今でも忘れられません。
家具は便利な収納であると同時に、大地震では凶器にもなります。
特に背の高い棚、テレビ台、食器棚、冷蔵庫などは要注意です。
たとえば、L字金具や突っ張り棒、耐震マットなどを活用することで、固定は誰にでも行えます。
実は、固定するのに大掛かりな工事や高価な器具は不要です。
ホームセンターで手に入るもので十分な対策ができます。
それでも「賃貸だから壁に穴があけられない」と尻込みする方も多いでしょう。
けれど、突っ張り棒や粘着マットであれば、原状回復も簡単です。
倒れやすい家具の前にベッドや通路があると、それだけで致命的な危険性が増します。
レイアウトの見直しもまた、大切な備えの一つと言えるでしょう。
その瞬間、家族の身を守れるかどうか。
それは、今この瞬間の選択にかかっているのかもしれません。
消火器設置率43.1％の現状と必要性
総務省消防庁の調査では、家庭に消火器を設置している割合はわずか43.1％と半数を切っています（出典：総務省消防庁 消防防災のページ）。
にもかかわらず、火災の原因として最も多いのは電気機器のショートやキッチンでの油火災です。
「火は怖いけど、うちは大丈夫」と思っている方こそ、要注意です。
私も以前、炊飯器のコードが劣化して焦げ臭いにおいがしたとき、ぞっとした経験があります。
消火器はそのとき、使い方を知らなければ宝の持ち腐れです。
だからこそ、月に1回は説明書を確認するようにしています。
とっさに「ピン・ポン・パン（ピンを抜き、ホースを持ち、レバーを押す）」が出てくるかどうか。
訓練で覚えたことしか、非常時には出てきません。
たとえば、家庭用として推奨されているのはABC粉末消火器。
これは普通火災・油火災・電気火災すべてに対応可能な優れものです。
また、マンション住まいの方は特に注意が必要です。
隣室や上下階の火災が延焼してくるリスクもあるからです。
設置場所はキッチン、玄関、寝室などすぐ手に取れる場所が基本。
「使うことがないように」という気持ちは分かります。
けれど「使えなかったらどうなるか」を考えてほしいのです。
火災は、わずか数分で家を飲み込むこともあります。
初期の一手が、その差を決めるかもしれません。
転倒対策と避難通路確保による減災の要点
家の中を見渡したとき、あなたはどこを通って逃げるかをすぐにイメージできますか？
それが、避難通路です。
消防庁は「家具の配置は避難経路を塞がないことが前提」と明言しています（出典：総務省 消防庁｜住宅防火対策）。
たとえば、玄関からベランダ、階段までの動線が安全であるかどうか。
そのルートに転倒しやすい家具やガラス製の装飾品がないかどうかをチェックしてみてください。
私は以前、深夜に揺れを感じて廊下へ出た際、倒れた姿見にぶつかり額を切ったことがあります。
家具固定だけでなく、配置の工夫が重要だと痛感しました。
特に、夜間の停電時は視界が効きません。
ヘッドライトや足元灯を設置しておくと、避難時の転倒リスクを大きく下げられます。
また、寝室の近くにはガラス製の棚や重い花瓶を置かないようにするだけでも、安全性は格段に向上します。
避難通路の確保は、「逃げられるかどうか」だけでなく「無傷で逃げられるかどうか」にも関わってきます。
意外と見落としがちですが、毎日の動線こそが、非常時の命綱になるのです。
日常の安心は、非常時の行動をスムーズにします。
その第一歩は、今日の家具の配置を見直すことかもしれません。
家族連携と避難行動で確実に生き延びる体制
家庭内防災マニュアル未作成率74.2％の課題
内閣府の2023年の調査では、家庭で防災マニュアルを作成している割合はわずか25.8％にとどまります（出典：令和5年防災に関する世論調査）。
言い換えれば、74.2％の家庭では「いざという時のルール」が曖昧なままなのです。
何となく話したことがある、そんな程度で済ませていないでしょうか。
私も以前は「たぶん家族なら、何とかなるだろう」と思っていました。
でも、ある日子どもに「地震のときどこに行くの？」と聞かれ、言葉に詰まったんです。
その瞬間、ゾクリと背筋が冷えました。
具体的に決めていないと、パニックの中では動けません。
防災マニュアルといっても、A4用紙1枚で十分です。
「地震発生時はどこに集まるか」「連絡が取れない時の合流場所」「非常時の連絡先」などを記載します。
玄関や冷蔵庫に貼っておけば、誰もが一目で確認できます。
もちろん、紙だけでは不十分なので、定期的に読み合わせをする習慣も必要でしょう。
一度作っておけば、更新はそれほど手間ではありません。
万が一のときに「家族がバラバラ」になることを防げるのなら、その手間は十分に価値があるはずです。
不安な未来を想像するのは勇気が要ります。
でも、向き合った分だけ、心は強くなるのだと思います。
避難所確認率49.6％と避難訓練未参加率67.3％
災害時、最も多い行動ミスのひとつが「避難の遅れ」です。
総務省消防庁の資料では、自宅近くの避難所を把握している人は49.6％しかおらず、避難訓練に参加したことがある人は全体の32.7％にすぎません（出典：消防庁｜災害に対する心構え）。
この数字、意外と低いと思いませんか？
避難所は「最寄りの学校」でしょ？と思っている方も多いのですが、実際は地域によって指定場所が異なることがあります。
しかも、地震の規模や火災の発生状況によっては、その避難所自体が使えないことも。
私は過去に、地元の避難所が耐震工事中で利用できず、遠方の避難所に案内されたことがありました。
知らなければ、右往左往していたでしょう。
だからこそ、平時からの「確認と練習」が不可欠なのです。
避難訓練というと、大げさに聞こえるかもしれません。
でも、家族で休日に散歩がてら避難所まで歩いてみるだけでも十分です。
道の途中にある危険ポイント、信号の数、時間帯ごとの混雑など、気づきは多いはずです。
また、高齢者や子どもを含めた家族全員の移動手段も想定しておく必要があります。
防災は知識だけでは足りません。
「体で覚える」という感覚もまた、非常時の落ち着きを支える大きな力になるのです。
災害用伝言板認知率64.1％が示す情報共有の壁
災害時、最も混乱するのが「連絡が取れないこと」だと言われています。
2023年の調査によれば、災害用伝言板（web171や171ダイヤル）を知っている人は64.1％にとどまっています（出典：内閣府 災害に関する世論調査）。
つまり、3人に1人以上は、いまだに存在すら知らないのです。
これはかなりのリスクです。
電話がつながらない状況でも、家族の安否を確認できる方法がある。
そうした情報を「知っているかどうか」だけで、生存確率が変わるかもしれません。
私は過去に、安否確認の連絡が3日間まったく取れず、眠れない夜を過ごしたことがあります。
そのとき、もし伝言板の存在を知っていれば、あんなに苦しまずに済んだのかもしれないと思うと、今でも胸が締めつけられます。
web171はスマートフォンやPCからアクセス可能で、登録も検索も簡単です。
同様に、各通信会社も独自に災害時の安否確認サービスを提供しています。
たとえば、NTTドコモ、au、ソフトバンクの各社サイトには、災害用伝言板や災害用音声お届けサービスの情報が掲載されています（出典：災害用伝言サービス｜総務省消防庁）。
家族で一度、これらのサービスにアクセスしてみてください。
「つながらない前提」で連絡方法を複線化しておく。
それだけで、災害時の焦りや孤独感はぐっと軽減されると思います。
情報の共有は、心の安心にも直結しています。
連絡がつくだけで、希望が生まれることもあるのです。
まとめ
地震や災害は、いつどこで起きるかわかりません。
だからこそ、日々の暮らしのなかで静かに備える姿勢が問われているのだと思います。
この記事では、家庭でできる地震対策と防災グッズの選び方を、具体的な数値と実体験を交えてお伝えしてきました。
防災というと「特別なこと」「大がかりな準備」と構えてしまいがちですが、本当に必要なのは日常への少しの視点の追加です。
缶詰を1個多く買う。
通勤ルートの途中に避難所があるか確認する。
家具の固定に10分だけ時間を割く。
その小さな選択が、未来の安全につながるかもしれません。
私自身、備えをしていなかったことを後悔した経験が何度もあります。
そして今は、その失敗を踏まえて「無理なく、でも確実に備える」ことを家族と実践しています。
「命を守る準備は、今のあなたにできる最高の投資だ」
そう言われたことが、ずっと心に残っています。
防災は決して一人の問題ではありません。
家族、地域、そして社会全体で支え合うべきものです。
今日のこの時間が、誰かの備えのきっかけになることを願っています。
明日ではなく、今できることを、どうか一つだけでも始めてみてください。
