
はじめに
朝起きてポストを覗くと、理事会からの封筒がぽつんと届いていました。
開けると、「修繕積立金の増額について」と太字で記された文書。
まるで電車の中吊り広告のように、目に飛び込んできたのは「1戸あたり月額3,000円増額」の文言でした。
ドクン、と心臓が一度大きく跳ね、次の瞬間、頭の中で「またか…」という言葉がよぎりました。
実はこの“増額通知”、初めてではないのです。
新築入居時には月7,000円だった修繕積立金が、築15年を迎える今ではすでに倍以上。
国土交通省の「令和5年度マンション総合調査」によれば、段階増額方式を採用したマンションの平均増額倍率は3.58倍。
これは決して特別なケースではありません。
払えないわけではない、でも「この先どうなるのか?」という不安が、日常の隙間にじわじわと染み込んでくるような感覚。
まるで、水がしみ込んだ畳のようにじわりじわりと心を重たくするのです。
先日、知人のマンションでも増額の通知が届いたと聞きました。
そこでは、住民の中で「今さらそんな金額は払えない」という声が上がり、理事会が紛糾したそうです。
私たちが日常で何気なく支払っている金額が、将来大きな壁として立ちはだかる──そんな現実が、静かに、でも確実に近づいています。
この記事では、そんな不安の正体を掘り下げます。
修繕積立金の“高すぎる”という感覚がどこから来るのか。
将来、ほんとうに「払えなくなる」ことがあるのか。
30年後、どんな暮らしが待っているのか──現実と数字、そして実体験を交えながら、静かに、でも確かに近づいてくる「その時」に備えるためのヒントをお届けします。
マンション修繕積立金の相場と平均が暴く未来の危機
築20年以降に迫るマンション修繕積立金の現実
エレベーターの「ギイィ……」という音が気になりはじめたのは、入居してちょうど15年を過ぎたころでした。
管理人さんが「そろそろ設備系が寿命ですね」とつぶやいたその言葉に、私は妙なリアルを感じたのを覚えています。
日常に埋もれがちな「音」が、静かに未来の不安を教えてくれる瞬間でもあります。
築10年を超えたマンションの約3割が修繕積立金不足に陥っているとのこと。
つまり、表面上は何も起きていないように見えても、水面下では「足りない予算」が静かに膨らんでいるわけです。
修繕というのは“突発的にやってくるもの”ではなく、“予測できる未来”です。
ところが、そこに備えるべき積立金が足りていない──この矛盾が問題の本質かもしれません。
「まだ使えるし」と先送りにしてしまった結果、建物全体の価値が損なわれてしまうケースも見聞きします。
気づいたときにはもう遅い。
それが築20年を過ぎたマンションに忍び寄る、もう一つの現実です。
さらに、経年劣化は部分的に現れるとは限りません。
ある年には給排水管、次の年には外壁、その翌年にはエントランスの防犯設備──こうした連鎖的な修繕ラッシュが訪れる可能性もあります。
そしてそれに対応するには、やはり事前の備えが不可欠なのです。
月額相場の上昇が示すマンションの老後破綻リスク
月々の出費にじわりじわりと染み出す修繕積立金の増額。
かつて月1万円程度と言われたマンションの維持費。
最新の調査で、その実態は大きく変わっていることが分かりました。
国土交通省の最新調査(令和5年度)によると、 日常管理にかかる「管理費」は、平均で月額12,059円。
大規模修繕に備える「修繕積立金」は、平均で月額14,089円。
この2つを合わせ、一般的な専有面積70㎡のマンションで計算すると、月額約32,410円が新たな平均像です。
つまり、かつての「1万円程度」というイメージは過去のもの。
現在は管理費と修繕積立金を合わせ、月々3万円を超える負担が平均的と考えるのが現実的です。
この数字、冷静に見れば“払えなくはない”。
でも、それが「将来もこの金額で済むか」と問われれば、答えはNOです。
多くのマンションが採用している段階増額方式では、修繕サイクルに合わせて月額が上がっていきます。
たとえば築30年を超えると、エレベーター、給排水管、外壁と一斉に大規模な修繕が必要になるケースが増える。
そのとき、積立金の残高が不足していれば、一時金の徴収や借入れという手段が現実のものとなります。
つまり、月々の金額ではなく「総合的な資金計画」がなければ、老後の生活にじわじわと影を落とすことになりかねないのです。
実際、近所の築30年を超えたマンションでは、修繕積立金の不足によりエレベーターの更新が5年延期されたという話を聞きました。
それは「老後の安心」を支えるはずの機械が、老朽化のまま使われ続けることを意味します。
資金の準備不足が住まいの安心感を奪う現実──そこに私たちはもっと敏感になる必要があるのではないでしょうか。
平均値で安心できないマンション修繕積立金の真実
「うちのマンション、平均くらいだから大丈夫」──そう思っていませんか?
たしかに、平均値というのは安心材料として語られることが多いです。
けれど、ここで一つ落とし穴が。
平均とはあくまで「分布の中間」であって、「安心の証明」ではありません。
つまり、あなたのマンションが“平均的”であったとしても、将来発生する修繕費に対して備えられているとは限らないのです。
また、建物の構造や規模によっても必要金額は大きく変わります。
機械式駐車場の有無、免震構造かどうか、管理会社との契約形態……こうした要素が積立水準に大きく影響します。
数字に惑わされず、「自分たちのマンションに本当に必要な額はいくらなのか?」という視点を持つことが求められる時代です。
加えて、長期修繕計画の見直し頻度も重要です。
5年以上改訂していない計画が現実のコスト感覚と乖離している可能性もあり、そのまま運用していると“誤差”が“危機”に変わることもありえます。
運用不足が生むマンション売却難の地獄の現実
ある日、不動産会社に「この物件は売りにくいですね」と言われたことがあります。
理由は、「修繕積立金の残高が少ない」から。
思わず「えっ、そんな理由で?」と驚いたのを覚えています。
でもこれは、今や売買の現場では“常識”だというのです。
購入検討者は、資産価値や立地だけでなく「長期修繕計画が現実的かどうか」「積立金の運用状況が明瞭かどうか」まで確認します。
つまり、積み立てていなかったツケが、売却という場面で“跳ね返ってくる”というわけです。
これは他人事ではありません。
特に今後は高齢化が進み、住み替えや相続による売却が増えると予想されます。
そのとき、積立金の運用不足が「売れないマンション」というレッテルを貼ってしまうことになりかねません。
“今はまだ大丈夫”の先に待っているのは、もしかすると売却すらできない未来かもしれないのです。
実際に、販売図面の備考欄に「修繕積立金の増額予定あり」と記載された物件が、内覧の段階で敬遠されるというケースもあります。
それだけ、「お金の準備ができているかどうか」は、資産としての信頼性に直結するのです。
値上げに反対できないマンション住民が払えない未来
決議で決まるマンション修繕積立金の値上げに住民が拒否できない理由
ある総会の日、議題に上がったのは「修繕積立金の月額を15,000円から22,000円へ引き上げる」提案でした。
一瞬、会場が静まり返ったのを覚えています。
ざわざわと小さな声が飛び交い、「えっ、また?」「そんなに急に?」という戸惑いが隠せない空気。
空調の音だけがやけに耳に残っていたのを今でもはっきり思い出せます。
しかし、議決権を持つのは出席者と委任状の総数によって決まる多数決。
参加者の中には、普段から理事を信頼して任せているという声も多く、議案は淡々と可決されてしまいました。
特に不在の住民の多くが「お任せします」と委任状を出している場合、結果として“住民の声”が反映されにくい状況が生まれやすいのです。
実は、こうした「強制的な値上げ」は、区分所有法という法律のもとで合法的に実施できるものです。
管理規約に基づき、必要な修繕を行うための財源として、住民の同意を経て改定されます。
とはいえ、実際には賛成したくないけれど反対しにくいという人が大半なのではないでしょうか。
「反対したら修繕ができなくなるのでは?」という不安。
「自分だけの意見が通るわけではない」というあきらめ。
この“半強制的な同意”こそが、値上げの実行力を支えているようにも感じられます。
本音と現実の間で揺れる住民の姿が、そこには確かにありました。
そしてその数ヶ月後、再び封筒が届きました。
今度は「追加議案として駐輪場の再整備について」
こうして“次々にやってくる”改修とそのたびに増額される積立金に、住民の疲弊が広がっていくようにも感じられました。
2倍3倍に膨らむ修繕積立金が生む管理費トラブル
ふとしたきっかけで開いた過去の家計簿。
修繕積立金の項目を見て、目を疑いました。
5年前は月8,000円だった金額が、今では18,000円になっていたのです。
しかも、これはまだ途中段階で、次回の総会では20,000円超が提案されているという情報もありました。
月々の固定費が増えることが、生活全体にどれほど影響を及ぼすかは、実際に経験してみないと分からない部分もあるのではないでしょうか。
こうした増額は、じわじわと家計を圧迫するだけでなく、他の支出にも影響を及ぼします。
特に高齢の世帯では、年金の範囲でやりくりしている人も多く、「食費を削るしかない」と語る方も少なくありません。
なかには、娯楽費や医療費を抑えるしかないと考える家庭もあると聞きました。
また、修繕積立金だけでなく、管理費や駐車場代なども同時に上がるケースが多く、月々の支払いが2万円以上増えるという事例も見られます。
住民間での不満も表面化し、「どこにそんなにお金が必要なのか」「見積もりは適正なのか」といった疑念が広がることも。
共有部の清掃回数が減った、外注の見積もりが1社だけだった──そんな小さな出来事の積み重ねが不信を育てていきます。
それでも、修繕が必要であることは誰もが理解しているため、声を上げにくいというジレンマが存在します。
このような状況では、住民同士の信頼が損なわれやすく、説明不足や合意形成の不備が深刻なトラブルへと発展することもあります。
管理費や積立金の増額が引き金となって、理事の辞任や住民の対立に発展する事例も決して珍しくありません。
過去には「理事をやってよかった」という人も、値上げを巡るトラブルで精神的に疲弊し、途中で交代せざるを得なくなったという話も聞きました。
金額だけではない“見えない負担”が、じわじわと住環境に影を落としていくのです。
拒否しても払わないとどうなるマンションの制度構造
「払えません」と言ったら、どうなるのか。
これは、実際に理事が直面する問題です。
ある高齢の方が、「これ以上は払えない」と手紙で通知してきました。
当初は同情の声も多く、「一時的に免除できないか」という意見も出ました。
しかし、管理規約と法律の制約上、一部住民だけを特別扱いすることはできません。
修繕積立金の支払いは、区分所有者の義務とされており、支払わなければ法的手続きを取らざるを得ない場合もあります。
延滞金の発生や督促、場合によっては少額訴訟の対象にもなり得ます。
実際、全国の管理組合の25.1%が滞納者を抱えているというデータもあります(令和5年度マンション総合調査より)。
つまり、「払わない自由」は制度的には存在しないのです。
ただし、分割払いや猶予措置を設けるなど、住民に寄り添った柔軟な対応を行っている管理組合も少しずつ増えてきました。
住民の生活を守りつつ、マンション全体の健全性を維持するためのバランスが求められています。
実はこのとき、私たちの組合では「生活支援相談制度」という仕組みを立ち上げようという話もありました。
社労士や地域の福祉団体と連携し、支払いに困っている方に行政の補助制度を紹介するなどのサポートも検討されたのです。
一人ひとりの事情に配慮しながらも、制度の限界に向き合わざるを得ない。
それが、現在のマンション運営のリアルな側面かもしれません。
制度は冷たくても、運用は温かくあってほしい──そんな願いが、私たちの理事会にはあったと振り返っています。
払えない老後を迎えるマンション住民の末路
「ここに住み続けたいけど、もう限界かもしれない」
高齢の女性がぽつりと漏らしたこの言葉が、今でも耳に残っています。
マンションは“終の住処”として選ばれることが多いですが、支出が増え続ける中で、老後にその場所が負担となることもあります。
特に年金収入のみで生活している世帯にとって、月額数千円の増額が重くのしかかります。
その結果、資金が尽きて滞納に至ったり、住み替えを余儀なくされたりする事例も出てきています。
また、売却を考えても「修繕積立金の増額予定」がネックとなり、買い手がつきにくいという壁にぶつかることも。
実際に、不動産会社から「このマンションは敬遠されがち」と言われた住民が肩を落としていた姿が印象的でした。
「払えない」ことが「住めない」ことに直結するという構図。
それが高齢化が進むマンション社会の未来に忍び寄る、静かな危機なのかもしれません。
あるケースでは、子世帯の支援を受けてようやく滞納を解消したという話も聞きました。
しかし、すべての家庭がそうしたサポートを受けられるとは限りません。
中には「最終的には生活保護しかないかもしれない」と語る高齢者も存在します。
将来に向けて、何を削り、何を守るのか。
その判断が、老後の安心を守る鍵となるのではないでしょうか。
少しずつでも、今から話し合えることがあるはずです。
「将来の私たち」が安心して暮らせる選択肢を、今の私たちが積み重ねていく。
その一歩が、価値ある住まいの未来をつくると信じています。
30年後に直面する払わないでは済まされない資金不足
30年後に修繕積立金が不足するマンションの共通点
「まさか、うちがそうなるなんて」
この言葉を何度も聞いてきました。
築30年を超えたマンションの理事会で、誰かがそうつぶやくと、他のメンバーも無言でうなずくのです。
外壁のタイルが剥がれ、給排水管の劣化が進み、エレベーターの異音が頻発する──そんな状況になって初めて気づく資金不足の現実。
共用部の床に浮き出る亀裂、雨が降るたびに染み出す壁のシミ、それらは修繕の“猶予”が尽きたことを教えてくれます。
実際、築30年以上の分譲マンションの多くが、大規模修繕に必要な額を満たせていません。
では、なぜそんな事態になるのでしょうか。
答えは、はじめの10年で積立が足りなかったからです。
新築時に設定される修繕積立金は、往々にして相場より低め。
販売促進のために月5,000円以下で設定されることもあり、その後の増額ペースが追いつかないまま築30年を迎えてしまうのです。
それに加えて、建築当初の資材や工法によって修繕サイクルが異なり、予想以上に早く修繕が必要になることも少なくありません。
しかも、途中で計画の見直しが行われていないケースが約4割。
修繕費は年々高騰しているにもかかわらず、当初の想定額のまま計画が据え置かれている──それが慢性的な不足を招く最大の要因です。
時間が経てば経つほど、修繕積立金の“借金体質”は深まっていくのです。
そして最後は「積み立てる」ではなく「借りる」選択肢しか残らないという悪循環に陥るマンションも出てきています。
運用しないことで進行するマンション資金の目減り
「定期預金にしてます」
ある管理組合の会計担当者はそう話してくれました。
年間1,000万円以上の修繕積立金が、ずっと普通預金で寝かされたままだったのです。
確かに元本割れのリスクはない。
けれど、インフレが進む中で、同じ100万円でも10年後の価値は確実に下がっています。
実際、インフレ率1〜2%で単純計算しても、10年後には約90万円程度の価値になってしまいます。
つまり、何もしないという選択が「静かな損失」を積み上げているわけです。
多くの組合が「安全第一」で運用に消極的なのは理解できます。
ですが、定期預金や国債などの元本保証商品でも、年0.2〜0.5%の利回りは見込める時代です。
それすら選ばないのは、“資金の死蔵”といっても過言ではありません。
実際、運用を始めた管理組合の中には、毎年数十万円の利息収入を報告しているところもあります。
地域金融機関と連携して「マンション向け定期商品」を活用するなど、工夫の幅も広がってきています。
リスクを避けつつ、資金の価値を守る。
それが、今後の修繕積立金管理に必要な視点ではないでしょうか。
特に資材価格が高騰している昨今では、「10年後に使う100万円」は「今の100万円」よりずっと小さな力しか持たない可能性があります。
積み上げたお金が“活きた備え”として機能するように、預け方の工夫が求められています。
ガイドライン未遵守が生む30年後の大規模修繕崩壊
国土交通省の修繕積立金ガイドラインでは、専有面積1㎡あたり月200円前後を推奨しています。
つまり、70㎡の住戸なら14,000円程度が目安。
しかし、現実には月1万円未満という物件も少なくありません。
ガイドラインを“目安”と捉えて無視してきた結果、修繕資金の確保が追いつかないのです。
「ガイドラインって強制じゃないんでしょ?」という声も確かにあります。
けれど、将来的に資金が不足し、エレベーターが交換できない、外壁が放置される──そんな事態に陥れば、住民全体の生活に影響が出るのです。
あるマンションでは、ガイドラインより30%低い水準で運用していたため、築28年でエントランス改修を断念せざるを得なかったという話もあります。
「せっかくここに住んでいるのに、こんな状態で来客を迎えるのは恥ずかしい」
住民のそんな声を聞いた理事が、ようやく増額提案を検討しはじめたのです。
“後悔”という二文字が、先送りしてきた代償として重くのしかかる。
それが、ガイドライン軽視の行き着く先なのかもしれません。
加えて、築30年を超えるマンションでは耐震補強やバリアフリー化など、新たな工事項目も現れてきます。
それらを見越した資金設計ができていなければ、今後さらに住みづらい状況に陥る可能性もあります。
「今が良ければ」では済まされない、それがガイドラインの本質的な警告と言えるでしょう。
払わない選択が招くマンション資産価値の消滅
「この物件は将来値下がりしますよ」
不動産会社の担当者が放ったその一言に、ある住民は立ち尽くしたと言います。
理由は、修繕積立金の残高が著しく少なかったから。
マンションの価値は、立地や築年数だけで決まるものではありません。
「将来、安心して住めるかどうか」も、重要な評価項目です。
特に中古市場では、修繕履歴や積立金の残高は“数字で確認できる信頼”として見られます。
その中で、「積み立てが不十分」「修繕計画が曖昧」といった印象があれば、買い手は二の足を踏むでしょう。
資産価値が下がると、売却価格にも影響が出ます。
そして最悪の場合、“売れないマンション”というレッテルが貼られてしまいます。
誰もが「そんなことにはならない」と思っていたけれど、結果的に“売却不可能物件”としてリストに残り続けている物件もあります。
さらに悪いことに、「値下がりする物件は家賃も下がる」といった悪循環も生まれかねません。
賃貸化した住戸が増えると、全体の管理意識が低下し、スラム化への懸念も強まっていきます。
払わないことは、一時的には家計を守る選択に見えるかもしれません。
でも、それが長期的には資産の死を招く可能性もあるのです。
将来の選択肢を守るという意味でも、今の負担をどう捉えるかが試されているのかもしれません。
「今は払える。でも将来は?」そう自問する習慣が、未来の資産を守る第一歩になるのではないでしょうか。
まとめ
修繕積立金という言葉は、普段の暮らしの中ではなかなか意識されることがありません。
けれど、それは静かに未来を支える屋台骨のような存在です。
「今は問題ない」そう思って見過ごしてきた先に、30年後の資金不足という壁が立ちはだかります。
そのとき、必要な修繕ができないという事態が現実になるかもしれません。
実際に、積立金の不足によって外壁の修繕が延期され続けた結果、漏水やタイル落下といった二次被害が起きた例もあります。
そしてその費用は、当初想定されていた金額の2倍以上になってしまったという報告もあります。
大切なのは、備えの量だけでなく、備える“タイミング”と“方法”です。
制度を理解し、数値を読み解き、住民同士で話し合う時間を持つことが、将来の安心につながります。
たとえば、運用方法の見直しや、ガイドラインに即した積立額の調整など、できることは数多くあります。
マンションは“買って終わり”の資産ではなく、“守り育てる”資産です。
それを維持する努力は、住民全員にとって等しく大切な営みなのだと思います。
そして何より、未来の自分や家族、地域に住む次の世代に「ちゃんと管理されてきた」と胸を張れる建物を残したいと感じます。
今、ひとつ踏み出すことで、10年後、20年後の安心が静かに育まれていく。
それはきっと、無言の積立金が教えてくれていることなのかもしれません。