
はじめに
「マンションに住んでいて、修繕って、そんなに大ごとなの?」
そんな疑問を抱いたのは、管理組合の理事を任されたある春のことでした。
エレベーターの異音、外壁の小さなヒビ、なんとなく気にはなるけど、放っておいても暮らせる――そう思い込んでいたのです。
しかし現実は違いました。
積立金が足りない。
工事の時期が迫っている。
業者の選定も進んでいない。
「えっ、あと半年しかないのに…?」と、愕然としたのを覚えています。
この記事では、国土交通省の最新データや信頼性の高い専門機関の情報をもとに、今こそ知っておきたい修繕積立金の実態と、住民が安心して暮らし続けるための備えを解説していきます。
積立金の平均は13,054円、そして1回あたりの大規模修繕費用は平均100〜125万円。
数字の裏にある現実と、そこから導き出せる未来のための選択肢とは――?
住まいの安心と資産価値を守るためのヒントを、あなたと一緒に探っていきましょう。
修繕積立金平均13,054円/戸を把握する意義
修繕積立金の全国平均13,054円とは何か(令和5年国土交通省調査)
ふとしたきっかけで目にした資料に、戸あたり13,054円という数字があった。
それが、全国平均の修繕積立金。
「毎月1万円以上って、ちょっと高くない?」そう思った方も多いかもしれません。
けれど、これはあくまで平均。
実際には、都市部では15,000円を超えるところも少なくありません。
逆に、築浅や地方都市では7,000円台の例もある。
つまり、地域や築年数によってかなりばらつきがあるのです。
私が以前住んでいたマンションでは、修繕積立金が9,000円。
けれど、いざ外壁補修の見積もりを取ると、「全然足りないですね」と言われ青ざめた記憶があります。
数字に安心するな、という教訓を肌で学んだ瞬間でした。
とはいえ、平均が13,054円ということは、それだけの金額が必要とされている現実があるということ。
マンション総合調査(令和5年) にも明記されているとおり、修繕は避けられないコストです。
気づかないうちに、毎月の支出が資産を守る要となっていること。
それを忘れてはいけません。
駐車場収入含め13,378円/戸の実態と地域格差
「うちは駐車場収入があるから安心」
そんな声をよく耳にします。
たしかに、収入があるのは好材料。
しかし、油断は禁物です。
実際、駐車場などの雑収入を含めても、1戸あたり平均13,378円にとどまっています。
これは、国交省のマンション総合調査(令和5年)にも明記されています。
地域によっては月2万円を超えるところもありますが、それは一部。
また、収入は変動するもの。
空き区画が増えれば一気に収支は悪化します。
かつて、私が関わった管理組合でも、3台分の駐車場が埋まらず、年間で50万円以上の減収となりました。
「もっと計画的に考えておけば…」と何度も後悔したのを覚えています。
つまり、収入に頼りすぎず、支出を前提にした積立額の設計が必要なのです。
単に「平均を下回っているかどうか」ではなく、「将来の修繕を賄えるかどうか」で考えるべきではないでしょうか。
あなたのマンションは、足りていますか?
平米単価186.5円程度の積立額の意味と適正範囲
修繕積立金を考えるとき、もう一つ重要なのが「平米単価」です。
1㎡あたり186.5円前後というのが、現在の目安とされています。
たとえば70㎡の住戸なら、13,000円程度が適正ライン。
ところが、意外とこの単価意識が共有されていない現場は多いです。
以前、ある説明会で住民から「なんでウチはこんなに高いの?」と質問されたことがあります。
調べてみると、単価が220円近く。
ただし、そのマンションはタイル貼りの外壁、機械式駐車場、屋上緑化とコストのかかる要素が満載でした。
「なるほど、そういう理由があるのか」と納得してもらった時は、ホッとしたものです。
修繕積立金は、高い・安いで判断すべきではありません。
建物の仕様、将来の修繕内容、それらを見越した金額かどうか。
あなたが住むマンションの平米単価、把握していますか?
きちんと見直すことで、未来の安心が見えてくるはずです。
大規模修繕の実態 1戸あたり平均100〜125万円の費用
国交省データで27%が100〜125万円負担の割合
気づけば、築20年が目前。
「そろそろ大規模修繕の時期です」と管理会社の一言。
焦って過去の議事録を読み漁ると、積立金残高は目標の6割程度。
このままでは赤字になる、と冷や汗をかいたのを覚えています。
国土交通省の調査によると、大規模修繕にかかる費用として最も多いのは「100〜125万円未満」ゾーンで全体の27%を占めます。
マンション大規模修繕工事実態調査(令和3年度) にもその数値は明記されています。
意外と高額なのだと感じた方もいるでしょう。
しかし、これは「一度きり」ではありません。
築60年時点で3回の修繕が行われているケースも多く、費用は累積で300万円を超えることも。
つまり、1回あたりの数字だけでなく、長期的な視点が欠かせないのです。
「そんなにかかるの?」と驚いた方こそ、いま見直すべきタイミングかもしれません。
備えあれば憂いなし。
あなたのマンションは、次の修繕に備えられていますか?
75〜100万円が24.7%、計69%が75〜150万円圏内
費用の平均は100万円強。
けれど、すべてのマンションがそれに該当するわけではありません。
実際、75〜100万円未満の範囲が24.7%を占めています。
また、100〜125万円未満が27%、125〜150万円未満が17.6%。
合計すれば、約69%が「75〜150万円」に集中しているのが現実です。
これはあくまで「1住戸あたり」の話。
たとえば60戸のマンションなら、6000万円〜9000万円規模の費用になる計算です。
額面に圧倒されて、つい先送りしたくなる気持ちもわかります。
しかし、劣化は待ってくれません。
私が以前関わった物件では、先延ばしにした結果、屋上の防水工事が漏水事故になり、倍以上のコストがかかりました。
「もっと早くやっていれば…」と、誰もが後悔する事態に。
あなたの住む建物が、同じ道をたどらないことを願います。
築20〜30年では中央値110万円、築後さらに費用上昇の傾向
築30年を超えたあたりから、費用はさらに増加傾向にあります。
国交省調査では、築20〜30年の修繕費中央値が110万円とされています。
マンション大規模修繕工事実態調査(令和3年度) の資料にも記載されています。
築10年台のうちはまだ比較的安価に済む部分も多いですが、給排水管や外壁の本格的な補修が始まるのは築20年以降です。
特に築30年を超えると、電気設備の全面更新やエレベーターの交換など高額な工事が続きます。
「一巡目より二巡目の方が高くなる」と言われるゆえんです。
私が理事長を務めていた際、ちょうど築28年で修繕を行いました。
当初の予算は8000万円。
しかし、追加工事と資材価格の上昇で、最終的に9500万円に膨れ上がりました。
予測の甘さと、想定外への対応力の不足を痛感しました。
ですから、これから迎えるマンションは「余裕を持って構えること」が何より大切だとお伝えしたいです。
準備は、早すぎるくらいがちょうどいいのです。
修繕積立金の見直しと計画の手法
段階増額方式で計画当初から約3.6倍上昇の実態
「なんでこんなに値上げされてるの?」
住民説明会で、その言葉が飛んできたときのヒヤリとした空気。
その場にいた誰もが戸惑い、気まずい沈黙が流れました。
段階増額方式――それは、最初は安く設定し、徐々に積立金を上げていく仕組みです。
導入時は負担が少なく、賛成を得やすい。
でも、その反動は10年、20年後にやってきます。
大規模修繕の資金計画と現実の乖離(マンション管理新聞) にも示されているとおり、30年間で約3.6倍に跳ね上がるケースもあります。
私が関わった案件では、初年度5,000円だった積立金が、25年後には18,000円に。
住民の一部が支払い困難となり、滞納が相次ぎました。
「将来設計を共有することが、どれほど大事か」
その教訓が胸に残っています。
数字は嘘をつきません。
計画の時点で、どこまで未来を見通せるかがカギとなるのです。
あなたのマンションでも、同じ轍を踏んでいないか、一度振り返ってみてください。
長期修繕計画は88%で作成済、30年以上の計画が72%の現状
「ウチのマンションにも長期修繕計画あるから大丈夫だよ」
そう言われて安心したのも束の間。
内容を確認すると、築25年以降の修繕スケジュールが空白でした。
国交省のマンション総合調査(令和5年) では、長期修繕計画の策定率は88%に達しています。
しかし、その中で30年以上の期間を想定しているのは72%。
つまり、4棟に1棟は「将来の絵図」が未完成なのです。
将来の修繕費は、建材や設備の性能、物価変動により変わります。
最初に作った計画書を、10年も放置してはいないでしょうか?
私自身、一度も見直されていない古い資料に驚愕したことがあります。
現場の実情と合わない数字は、時に誤解や不信感を招くものです。
計画は「あること」が重要なのではなく、「生きていること」が必要です。
あなたのマンションの計画書、最新ですか?
それとも、もう眠っていませんか?
計画と現実にギャップ:36.6%が積立不足、11.7%は20%超の不足
積立金をきちんと払っているつもりでも、安心はできません。
マンション総合調査(令和5年) によると、36.6%のマンションが「必要額に届いていない」と回答しています。
さらに深刻なのは、そのうち11.7%が20%以上の不足という事実です。
こうした不足分は、将来的に一時金徴収や借入れ、修繕内容の縮小に直結します。
過去に見た例では、耐震補強を見送らざるを得なかった現場がありました。
「もっと早く対応していれば」と後悔の声が絶えませんでした。
誰もが平等に住んでいるマンションなのに、費用の負担は不平等になりがちです。
若い世代は将来の増額に備え、高齢者は今の支出に敏感になります。
だからこそ、積立金の現状と将来を見える化する努力が必要なのです。
あなたの今の支払い、将来に通用しますか?
見えていなければ、見直すタイミングなのかもしれません。
まとめ
マンションの修繕積立金は、日々の生活では意識しにくい存在です。
しかし、その金額設定や運用次第で、住まいの未来は大きく変わります。
国の統計を見ても、13,000円を超える平均負担、100万円以上の修繕費。
数字だけを見れば重く感じるかもしれません。
でも、それは安心と快適を維持するための“保険料”でもあります。
私が関わったある現場では、修繕費が足りず、計画が頓挫しかけました。
「こんなはずじゃなかった」
その言葉が、理事会でも何度も繰り返されました。
最終的には住民全員で納得できる形を模索し、追加負担を回避。
きちんとした計画と説明があれば、信頼は築ける。
そんなことを体感した経験でした。
一方で、積立の不足や無関心が続けば、未来の暮らしは簡単に崩れてしまいます。
数年後の安心をつくるのは、今日の一歩です。
いま一度、計画書を開き、数字を見つめてみてください。
足りているか、不足しているか。
想定が甘くないか。
共有されているか。
あなたの“いま”の行動が、未来の安心を守る礎になります。
家族が住み続けられる場所にするために。
将来売却するとき、買い手から信頼される建物にするために。
大切な住まいの価値を、今こそ一緒に考えていきましょう。