
はじめに
マンションという共同住宅の運営において、「理事会」はまさに心臓部といえます。
この組織がしっかり機能するかどうかで、住まいの安心感や資産価値の維持に大きな差が生まれます。
にもかかわらず、多くのマンションでは理事会の存在が空気のようになっており、その実態を把握していない住民も少なくありません。
特に高齢化が進んだエリアでは、理事会の担い手が限られ、機能不全に陥るケースも報告されています。
筆者自身、以前住んでいたマンションで「理事長が病気で辞任→後任不在→総会延期」といった事態を経験しました。
その混乱ぶりは、まさに“管理の真空地帯”とでも呼ぶべきものでした。
国土交通省『平成30年度マンション総合調査』によると、区分所有者の53.1%が60歳以上であり、管理組合活動に無関心な区分所有者の増加を課題と捉える回答も27.0%に上ります(出典:平成30年度マンション総合調査)。
こうした現実を前にして、私たちは「誰かがやるだろう」という考えを手放さなければなりません。
無関心は、マンションの劣化を静かに加速させる最大の要因です。
逆に、少しの関心と行動があれば、理事会はもっと開かれたものになります。
実際、参加した住民が「思っていたよりずっと楽しかった」「近所にこんな人がいたのか」と語るケースも増えています。
情報共有や交流イベント、外部支援の活用によって理事会の役割は柔軟に変化し得るのです。
この記事では、最新の調査データと現場での実例をもとに、理事会のあり方とその活性化について具体的に掘り下げていきます。
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その第一歩を、ここから一緒に考えてみませんか。
区分所有者高齢化53.1%と無関心61.9%がもたらす理事会運営の現状と課題
区分所有者の高齢化53.1%・居住者高齢化44.3%の影響を理解する
「気づいたら、うちの理事会は70代ばかりだった」──そんな話を現場で何度聞いたことでしょう。
国土交通省の『マンション総合調査(2022年版)』によれば、区分所有者のうち53.1%が60歳以上です(出典:マンション総合調査(令和4年度))。
しかも、実際に居住している世帯主の44.3%が高齢者という結果も示されています。
この構成比、思った以上に深刻ではないでしょうか。
「高齢者が多いからダメ」というわけではありません。
ただ、体力的な問題や、デジタルツールに対する苦手意識が理事会の運営に影響しているのは事実です。
ある理事長は「議事録ひとつ作るのに1週間かかった」と話していました。
それでも、誰もやる人がいない状況では、無理をしてでも続けなければならない……。
そんな重圧が重なると、当然ながら運営自体が疲弊してしまいます。
あなたのマンションでも似たような状態、ありませんか?
とはいえ、すぐに若い世代が理事会に入ってくれるわけではありません。
「面倒」「時間がない」「誰かがやってるでしょ」——特に共働き世帯からはよく聞く声です。
でも、その「誰か」はすでに限界に達しているかもしれません。
つまり、いまこそ世代交代の橋渡しが必要なのです。
私の体験で言えば、高齢の理事長と若手住民が「掲示板の更新」をきっかけに話すようになり、世代間の距離が一気に縮まりました。
小さな接点こそが、コミュニティ再生のカギになるのです。
こうした世代間の連携は、実は災害時の対応力にも大きく影響します。
若い世代の機動力と高齢者の経験をうまく組み合わせることで、理事会の意思決定もスムーズになるはずです。
理事役員申し出時、約50%が「辞退」する実態
さて、理事会の人選に関しては「輪番制」が採用されているマンションが多いはずです。
ですが、実際に選出された住民が「辞退」する割合をご存じでしょうか?
ある調査によれば、その割合は実に約50%にものぼります。
つまり、理事会を回すために選ばれた人の半数が、最初から辞退しているのです。
一度、「役員就任のお知らせ」がポストに入っていたのに、放置してしまったことがありました。
あのとき、「誰かがやるから」と思っていた自分が恥ずかしいです。
現場では、「やりたくない」「無理やり押し付けられた」と不満を抱えたまま参加する理事も多く、会議が機能しないケースもあります。
とはいえ、全員が快く参加する仕組みをつくるのは難しい。
だからこそ、辞退が出ても運営が止まらない制度設計や、外部支援の導入が重要になります。
最近では、AIを活用した議事録作成や、専門家による理事補佐制度の導入も広がりつつあります。
こうしたテクノロジーの導入は、理事会の負担軽減と質の向上を同時に実現する鍵になるでしょう。
(出典:マンション管理センター マン研レポート)
輪番制負担や高齢化による運営停滞の理由整理
「輪番制なんて時代遅れじゃないの?」そんな声もちらほら聞こえてきます。
たしかに合理的に見えて、実は課題だらけの制度です。
特に高齢者が多くなっている今、その仕組みに無理が出てきていることは明らかです。
一例をあげれば、80代の住民が輪番制で理事長になった結果、会計処理が3カ月遅れたという話もあります。
また、輪番制だと「次は自分の番か」と常に不安がつきまとう。
そのストレスがコミュニティ全体に影を落とすことも。
こうした状況を解消するために、立候補制や外部理事制度の導入が各地で模索されています。
たとえば東京都内のマンションでは、自治体の支援を受けてプロの理事サポートを取り入れたところ、運営が格段にスムーズになったという例も。
また、マンション管理会社との連携を強化することで、輪番制に依存しない新たな体制を築く動きも見られます。
将来的には、一定の報酬を設けてプロ意識を持った理事を育成する制度も必要になるかもしれません。
未来のために、今の仕組みを見直す勇気が求められています。
区分所有者理事長割合89%と外部専門家活用意向44.1%の意味
区分所有者が理事長を占める割合89.0%の実態
数字だけ見れば「ほとんどのマンションで住民が理事長を務めている」となります。
その通り、国土交通省の調査(令和4年度)では、理事長の89.0%が区分所有者自身というデータが出ています。
(出典:マンション総合調査(令和4年度))
表面上は「自主管理が機能している」と映るこの数字ですが、実態は必ずしもそうとは限りません。
「やりたくないが仕方なく引き受けた」「次がいないから断れなかった」といった声が根強くあります。
以前、理事長に任命された男性が「押し付けられたような気がして気が重い」と話してくれたことがあります。
会議資料の準備、クレーム対応、修繕の判断、管理会社との折衝……。
想像以上の業務に圧倒される人も少なくありません。
なかには、仕事との両立が難しく、平日の対応ができずにトラブルになったという話も耳にします。
「理事長=名ばかりの負担大役職」になっているケースもあるのです。
とはいえ、毎年のように理事長を回していく輪番制度の下では、次期候補者が見つからず、結果的に同じ人が数年続投することも珍しくありません。
その間、住民間の緊張感も続きます。
「またあの人か……」「誰もやりたくないのだから文句を言うな」——そんな空気がマンション全体に漂ってしまうのです。
そこで出てくるのが、「いっそ外部に委託したほうが楽ではないか?」という発想です。
実際に、外部理事の導入を検討したという管理組合も少なくありません。
負担感とリスクを冷静に見つめたとき、その選択肢は以前よりも現実味を帯びています。
外部専門家への依頼意向が44.1%に上る背景
近年注目されている「外部理事制度」や「第三者管理方式」は、その名のとおり、住民以外の専門家が理事会運営に参画する仕組みです。
国交省の最新調査では、「管理が難しくなる前に専門家に任せたい」と考える管理組合が44.1%に上ると報告されています。
これは裏を返せば、半数近くが「いずれ自力での理事会運営が困難になる」と感じていることを意味します。
特に高齢化と若年層の無関心が重なると、理事会の人選自体が成立しなくなってしまうおそれがあるのです。
「外部の人に任せたら意見が通らなくなるのでは?」という懸念の声もあります。
ですが、実際に導入しているマンションでは、むしろ住民との対話を重視しながら、適切な判断と報告がなされているという事例も多く報告されています。
筆者が取材したある首都圏のマンションでは、外部理事が入り始めてから理事会議事録の整理が進み、修繕計画の透明性が格段に向上しました。
また、クレーム処理や業者交渉も一元管理され、住民の精神的ストレスが減ったといいます。
こうした成功例を見ると、「外部=他人事」ではなく「外部=共に支えるパートナー」と捉える視点が必要に思えます。
制度や人材の質次第では、住民の信頼を得られる運営が十分に可能なのです。
将来的には、専門資格を持った外部理事の育成とマッチングを自治体が支援する制度も求められるでしょう。
管理会社へ全管理事務委託率74.1%の現状
実際、多くの管理組合ではすでに何らかの形で「外部委託」を取り入れています。
国土交通省の令和4年度データでは、管理会社に「全部委託」している組合の割合は74.1%に上ります。
つまり、すでに4分の3以上のマンションが、日常の運営や業者対応を専門家に任せているという実態があります。
これは決して「無関心だから外注している」のではなく、「安心と効率を求めている」結果といえます。
ただし、委託しているからといって、すべてが万全に機能しているとは限りません。
契約書の内容、責任の所在、報告体制など、細部に目を配らなければトラブルの温床にもなり得ます。
筆者が過去に関わったマンションでは、修繕業者の選定に関する重要な情報が理事会に十分共有されておらず、費用が想定を大きく上回ったことがありました。
このとき、住民からの不信感が一気に高まり、臨時総会まで開催される事態に……。
結局のところ、委託か自主管理かの問題ではなく、「関与の度合い」が問われているのだと痛感しました。
管理会社を“任せっきりの存在”とするのではなく、“対話と信頼のパートナー”としてどう付き合うかが鍵です。
チェックリストの作成や年次報告会の実施など、住民の関与を日常的に取り戻す仕組みも一緒に整えていく必要があります。
管理の質とは、体制の話ではなく、意識の話でもあるのです。
住民交流と情報共有で理事会参加を促す具体策
総会出席率10%以下が45.9%、委任含む参加率76〜99%が58.6%の実情
静まり返った会議室、椅子が空いたまま並ぶ光景。
これはあるマンションの総会風景です。
実際、全国のマンションでは「総会にほとんど人が来ない」現象が当たり前になっています。
品川区が2021年に実施した調査によると、総会出席率が10%未満の管理組合が45.9%にのぼることが判明しています。
ただし、委任状や議決権行使書などを含めると、実質的な参加率が76~99%という回答が58.6%ありました。
これは「書面での参加はするが、実際に足を運ぶ人は少ない」ことを意味します。
なぜ来ないのか?
「仕事で行けない」「関心がない」「内容が難しそう」——理由はさまざまです。
けれど、そのどれもが「距離感」に集約されるように思います。
理事会と住民のあいだにある、見えない壁。
それを崩すには、ほんの少しの“関わり”から始めるしかありません。
防災訓練78.9%・イベント開催68.4%がコミュニティ活性に不可欠
「ただの防災訓練で、理事会に興味が出るなんて思わなかった」——以前ある住民が言った言葉が今でも忘れられません。
防災訓練やイベントは、単に非常時の準備をするためだけでなく、住民同士が顔を合わせる数少ないきっかけでもあります。
同じ調査で、防災訓練を実施している管理組合は78.9%、イベント開催は68.4%と報告されています。
こうした活動は「理事会=お堅い存在」というイメージを柔らかくしてくれます。
私も一度、年末の大掃除後にぜんざいを配るイベントを手伝ったことがありました。
普段あいさつすらしない隣人と、笑いながら雑談した瞬間、理事会の“敷居”が少し下がった気がしました。
たったそれだけで?と思うかもしれませんが、たったそれだけが効くのです。
イベントの導入には労力がかかります。
でも、一度やってみると、思った以上に参加者の反応がポジティブだったという声が多く聞かれます。
次につながる手ごたえを得たら、今度は少しずつ規模を広げていけばいいのです。
SNS・QRアンケート導入で若年層の無関心層61.9%を巻き込む構想
若年層の理事会離れは、もはや全国共通の課題です。
理事会活動に「無関心」と答えた割合は、全国調査で61.9%。
(出典:平成30年度マンション総合調査)
特に20〜40代では、仕事や子育ての忙しさから関与を避ける傾向が強まっています。
では、どうやって巻き込むのか。
鍵となるのは、彼らの“日常の中に理事会を入れる”ことです。
たとえばLINEでの情報配信、Instagramでの活動報告、QRコードでの匿名アンケート——。
こうしたツールなら、彼らにとって負担感がなく、受け取りやすいのです。
あるマンションでは、QRコードを使って「共用施設の改善案アンケート」を実施したところ、普段発言のなかった若い世代から多数の意見が集まりました。
「実はずっと言いたかったけど、面倒で言わなかった」という住民もいたそうです。
声を出しやすくするだけで、関係性は変わる。
そして「理事会って意外と聞いてくれるんだ」と思えば、次は“自分も少し関わってみようかな”に変わっていくのです。
手段を変えれば、関心の芽はどこからでも育ちます。
まとめ
理事会が機能するかどうかは、マンション全体の居住環境や資産価値に直結します。
区分所有者の高齢化が53.1%、理事会に対する無関心が61.9%という現状を見れば、それは明らかです。
「関心がない」「面倒だ」では済まされない時代が来ています。
筆者自身も、以前「誰かがやるだろう」と目を背けた結果、理事会が崩壊しかけた現場を目の当たりにしました。
あのとき感じた“危機感”と“後悔”は、今も忘れられません。
ただ、すべてを一人で背負う必要はありません。
外部の専門家を取り入れる方法もあれば、イベントやSNSで少しずつ関わるスタイルもあるのです。
管理会社に全て委託しているマンションはすでに74.1%にのぼります。
それでも、任せきりにせず“共に運営する意識”が重要なのです。
住民一人ひとりが「ちょっとだけ関わる」ことで、理事会はもっと柔軟で活気あるものに変わっていきます。
理事会のあり方に“正解”はありません。
でも、“無関心”がもたらす結果は、どこも似たような結末を迎えるのです。
ほんの少しの行動が、明日の住みやすさをつくる。
理事会の未来は、私たちの小さな選択の積み重ねにかかっています。